好きかも、しれない














「お、俺っ!兵助の事…す、す、好きなんだっ…けど…」

「…は?」





初めて食べた兵助の豆腐料理は、明らかに自分だけの為に作られた物だった。
単に自分一人に、って意味じゃない。
兵助と同じ、生物委員長代理として苦労する自分の為に、わざわざ型どって作られた可愛らしい豆腐達…
皆に地獄のようだとビビらされていた分、泣きそうな程嬉しかったんだ。
ぱくぱくと頬張る俺の向かいに座って、にこにこしながら食べ終わるまで見守る兵助を見ていたら、何だか凄く幸せだなぁと思えた。



こいつはこんなに笑う奴だったっけ?



授業でも委員会でも兎に角何時も仏頂面の印象しか無い。
大好きな豆腐を手作りして食べさせられるから機嫌が良い、それは分かってる。
分かってるけど、何て言うか…
可愛い?
いや、同い年のそれも男に対して可愛いは無いだろ!
だけど…やっぱりその言葉が一番しっくり来る気がする。
一度そう考え始めると兵助を見掛ける度にぼんっと頭にそれが浮かんで、掻き消そうと首や手を振る挙動不審な自分を見兼ねた同窓の一人、鉢屋三郎が声を掛けて来た。

「ハチ、お前最近更に可笑しいぞ」

「更に、は余計だけどな!…はああぁ〜」

「当ててやろうか?ズバリ、兵助だろ!」

「なっ、何故それを…っ!?」

「当たってんのかよ!え〜…」

ズバリと胸の内を当てられた上に言い出した本人から引かれてしまった。
こっちだって大混乱だよ!
だが…

「この際開き直るっ!だから聞いてくれ!あの日から、あの豆腐料理食べさせて貰った日から変なんだ…俺、俺!兵助が可愛くて仕方無いんだっ!!」

「思いっ切り開き直ったなぁ、おい!」

「なぁ、何だコレ?俺頭おかしくなったのか?まさか、あの豆腐料理に何か仕込んであったとか…?」

「あー、ハチ…?」

「どどどどうしようっ!!!病気かも知れないっ!!!今直ぐ善法寺先輩の所へ…っ!」

「ハチ落ち着けっ!それは病気は病気でも、伊作先輩には治せないぞ!!」

…そ、そんな!
不治の病って事か…
無念…
…立派な忍者になるって約束したのに、御免よ母ちゃん。
その場に項垂れた俺の肩を三郎が優しく叩く。

「ハチ、何の病気か教えてやろうか?」

「…俺、死ぬのか」

「それはお前次第だぞ」

「俺次第…?」

「何故ならそれはな…恋の病だからだ!」

は…?
恋の…病、って誰が、誰に?
…俺が、兵助にかっ!?

「そ、そんな馬鹿な…っ!確かに兵助は可愛くて優しくて頭良くて色っぽくて悪いとこ無しだけど、そんな事…」

「…寧ろ今の自分の言葉で確信しろよな。完全っに恋だ、恋っ!!」

「…そ、そうだったのかー…」

呆然とする自分に更に三郎が囁く。

「男ならズバっと告白しろ。お前の事だ、悩み死ぬより振られて死ぬ方が良いだろ」

「いや、どっちにしても死ぬのは嫌だけどな。…告白かぁ、って振られる前提っ!?」

「何だ、お前って意外にへたれだな。大丈夫だって。言われたんだろ?兵助に」

「何を?」

「“俺の作った豆腐料理、一生食べてくれるね?”って」

「何か要らんモンが付いてる気がするが、そうだな…言われたかな」

「それはそういう意味だろ?兵助もお前が好きなんだよ」

な、何だって!?
じゃ、じゃあアレは兵助からの、こ、告白だったのかっ!!!
俺とした事が…っ、聞き流す所だったぜ危ねーっ!!!
そうなれば、やる事は一つだ!

「三郎っ、恩に着るぜ!やってやるぞーっ!!」

そう叫んで俺はつい先程兵助を見掛けた火薬倉庫へ向かって走り出した。
その後の二人の会話は聞かずにー。

「…三郎、面白がるのも良い加減にしなよ」

「…からかうつもりだったんだが、マジだったとは…大丈夫かな、雷蔵?」

「…僕、知らないからね」





そうして兵助を見付けた後、冒頭に戻るのだ。
意を決した告白。
だって兵助から言わせる訳には行かないだろ。
男が廃る、って兵助も男なんだけど、兎に角!
俺からバシッと決めてやるんだっ!!
だけどー

「…」

「…へ、兵助?あの…聞こえてたか?」

「…ああ」

…何だ、この重い空気。
にこりどころか全く表情を変えない兵助の顔を見詰めて居ると、じんわり手に汗が滲んで来る。
…俺もしかして、やっちまった?
両思いって言うのは妄想だったのか?
今、兵助は俺をどんな目で見てるんだ?
気持ち悪い、軽蔑、…大嫌い。
…さ、三郎〜っ!!!!

「…わ、悪い兵助!俺、お前を困らせる事ー」

「…はち」

次に何を言われるのか怖くて目を閉じる。
もう近寄るなとか、話し掛けるなとか、そんな事を言われたら立ち直れないかも知れない。
恋を自覚した日に失恋して友達にも戻れなくて、何て馬鹿な事しちまったんだ。
次の瞬間、ふわりと風を感じ目を開けると兵助の髪が視界の際に見えた。
胸元に僅かに触れる兵助の肩を感じて、寄り掛かられて居る事に気付き体が固まる。
…これは、何だ?

「へ、兵助っ!?」

「はち…俺も、はちが…好きかも、しれない」

耳元で囁かれた言葉を頭で何度も繰り返す。
好きとは言い切られては無いが、それはそう言う意味か…?

「…だ、だって、全然そんな顔してねーだろ!」

「…俺、本当に恥ずかしい時…こんな感じなんだ…御免、表情無くて」

「…ほ、本当か?」

「…うん」

「これからも俺に、豆腐料理食べさせてくれるか…?」

「…勿論!」

「ぃやった〜っっ!!」

嬉しさの余り兵助を抱き上げると表情を変えないまま叫ぶ。
少し頬が赤く染まっているのは気のせいじゃない筈だ。

「は、はち!!降ろせっ、恥ずかしい!!」

「大丈夫、全っ然顔に出てねーから!」

「そう言う問題じゃ無いだろっ!」

「これから俺が、いっぱい笑わせてやるからなっ!その無表情とも近々お別れかも知れないぞ!」

その言葉に兵助が一瞬目を見開いて、信じられない程綺麗に笑った。

「期待してる」

「…お前、やっぱり可愛いなーっ!!」

「やめろって…っ!!」





好きかも、しれないー
今自分が言える、精一杯の告白。
いつかちゃんと好きだと伝えるから、それまで素直になれない自分の隣りに居て欲しい。
だって本当は、お前が好きで好きで堪らないから。









(完結)








兵助の豆腐地獄の段、何度見ても萌えますな!
初めての竹くくをギャグにしてしまう辺り、我ながら阿呆ですにゃはは(o_0)
…済みません。
今年はほんわか竹くく、いっぱい書けたら嬉しいです!
因みにうちの兵助は“はち”ひらがな呼びです☆
愛を込めて(*^^*)
有難う御座いました!



お題は→確かに恋だった様より


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