断片(+本編とリンク)
12.11.12 軽い愛ならお断りします

  此処特有の薬品の臭いと、ホルマリン漬けされた動物たちが覗いている中で、奴の持つ『それ』の臭いが教室中に充満している。
「やだーりったんから此処に来てくれるなんてどしたの?  明日槍でも降る?天気予報確認しなきゃー」
「……全部棒読み、それからアンタの元に必要にかられて行くことなんてざらだろ」
「ま、そうなんだけど」
  茶化してニヒルに笑う目の前のふざけた教師(これでも実力はあるんだから一層腹が立つ)は、身体の毒にしかなり得ないものを口にくわえながらも、緩慢として頬杖をついてこちらを見ているだけだ。
(……煙たい)
  銀の灰皿に押し潰されている煙草の量からかなりの時間居座っていることが読み取れる。溢れているのに捨てずにいるのはただ単純に面倒なのだと知っている。
  煙草の臭いが嫌いなわけではない、むしろ、慣れている。ただ、自分で吸ってみたときもう二度とこんなものなんて吸わない、否応がない時だけにしようと思うくらいだ。それに周囲への影響もあるのだから、あの従兄弟たちのためにも俺が服用することはほぼ零に等しい。
  彼の奴と言えば、あの頃から変わらずヘビースモーカーで、独特の香りを身に纏い続けている。
「書類ミスがあったから頼まれたんだよ、こんなとこで油を売っているくらいならさっさと持ち場に戻って仕事しろ」
「えー?  一応此処も俺の持ち場なんだけど。実験の準備もあるし」
「灰皿の上のものがそうではないことを決定付けてるからな」
「あ、やっぱバレる?」
  にやにやと笑う顔を睨み付けると、目を細めて奴は口だけで笑った。

  ぞくっ

「……あのさぁりったーん。そんなに俺が嫌いなら、例え頼まれてたとしても率先して俺のとこに来る必要なんてなかったでしょ。他にも手のあいてる人はいたはずなんだから、りったんの手を煩わせることもなかったって言えるし。なによりそーんな顔を俺に見せることもなかった」
  立ち上がって近づいてくる奴から一歩、二歩とじりじり後退していく、けれど、真後ろはもう壁で俺の真横を掠めて奴の手が壁についていた。
「あーこれこれ、なんて言うんだっけ?  壁ドンだっけ?」
「知らな……」
「うん、まあそんなことはどうでもいいんだけど。あのさぁ、忘れたの?俺はあの頃再三言ったよね、求めたら終わり、すがったら終わり、それから望むな、ってさぁ」
片手に持ったままの煙草を口に含み顔面にはきだされる。
「げほっ!  ぅえっ!」
「不細工な顔、でもさっきよりはマシかもねぇ。…… 俺ってさぁ、興味持てないことに時間注ぎたくないんだわ。化学だって解けない過程を楽しむためにあるもんでしょ、いつも解りきった答えじゃ何の面白味も持てないわけ。それこそある薬品と違う薬品を過程を変えて混ぜたときに、新しい結果が出るかもしれない。だからこそ、その未知を発見し解明しえるこの教科が好きなんだよね」
  もう持ち手のない片手のそれを床になじりつけ、冷めた目で俺を見続けている。煙りからか苦い味が、においが、頭をガンガンと痛みつけた。
「俺はりったんを救えないよ」
  あの時と同じ言葉を紡ぐあいつに俺は、
「お前なんぞに誰が……っ!」
  矢張同じ言葉を返して、上出来だと笑う顔にヘドが出た。



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リタ:★キリンリキ♂
暁先生:アリアドス♂ しらはえさん宅

公式許可もらったので。


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