とある私の記憶のはなし



記憶の底に種がある
芽吹かぬそれは生きている
記憶の底に種がある
私のそれは色をもたない

人は誰も思い出があり
そこから手足を伸ばしている
そしてその手で何かを掴み
足で歩き
また思い出を積み重ねる

思い出はいつか記憶になり
セピアのそれは脳裏に積もる
日射しの下の土のように

記憶の底に種がある
芽吹かぬそれは生きている
私の記憶を食みながら
ひとつの形を成している

記憶の底に種がある
それは呼吸を繰り返し
渇いた大地に根を伸ばす
まるで私が手を伸ばすように
それが当たり前のように

記憶の底に種がある
芽吹いたそれは生きている
花をつけるには
水が足りない底に根を伸ばし
静かににたりと笑うように
生きている

記憶の底に種がある
芽吹いたそれは待っている
私の重ねる思い出が
もう少しセピア色の大地へと
古び降り積もる時を

記憶の底に種がある
咲かず枯れずの葉を伸ばす
手のように

それに張りついた土が
セピア色が
稀にはらはらと落ちてくる
光を浴びて渇いたそれは
粉のように舞い上がる
落ちる

真新しい思い出のように


私はそれをペンの先へつけ
この物語を書いている




とある私の記憶のはなし



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