Twitter企画にて
書き出し提供・純華さん

 残ったのは秋桜だった。塗炭の屋根の青が、塀の蔦の緑が、隙間に差す空の水色が、君の服の黄色が、全部抜け出した世界で。
 君の手にした秋桜だけが、どういう理屈か、桃色を残した。多分、そこだけ日が当たらなかったのだと思う。細い桟の影が差している。
「変わりないな、そっちは」
 数年ぶりに帰った田舎の部屋で掃除をしながら、僕は色褪せた写真の中、佇む少女に声をかけた。ロンドンは遠かったよ。食べ物は言うほど不味くはなかったが。そちらはどうだったんだい、なあ。最後に見たときはまだ、色のついた服を着ていたと思うが。
「空はまだ、高いのかい」
 浅く浅く、色褪せて。空も君も等しくセピア色に変わっても、君の目はまだ細められて、眩しそうだ。永遠の小春日和、心臓の前に秋桜を自ら手向けた君は、きっといつの日か、美しく懐かしいこの情景の一部となって。
 僕の前から、そのとき初めて、遠く消えるのだろうね。



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