Twitter企画にて
書き出し提供・遥さん

 使うのはいつも、白い色鉛筆だった。おかげさまで白のためだけに、僕は何度色鉛筆を買ったか分からない。
 家に余る大量の桃色や青を、まったくどうしてくれようか。こっちは君の世界ほど、品揃えが充実していないんだよ、と独りごちる。十二色セットが一般的だ。バラ売りなんて優しい経済は、まだ目覚めていない。
(ああ、またか。くそ、いい加減にしろ)
 そろそろこの白も短くなってきた。また君のために十二色を買わないとならない。まったく、どうして僕らは客を選べないのだろう。担当地区なんて制度、いったん滅びてしまえばいいのに。
 心からそう思ってやまない。けれど。
「……こんばんは。何をお望み」
「あ……」
「知ってるけどね。出口、だろ?」
 夢の中、今日も息を切らせて誰か、誰かと叫びながら暗闇を駆ける姿を見ていると、どうにも手を出さずにはいられない。人間というのはこれだから面倒だ。
「あなた、は?」
「さーね。呼ばれて飛び出て何百夜めかのサビ残夢魔だよ。いいから、ほら」
 忘れるくせに、名前を問い。戸惑いながら見上げてくる目の前に、白い色鉛筆で線を引いてやる。経費で落ちるかな。無理だろうな、絶対。
「これ辿って帰りな」
 安心した顔を見る前に、背中を押した。
 礼なんて言われたら、認めざるをえなくなってしまう。何百回めかも忘れたこのやりとりが、重大な規約違反であることを。
(二度と来るなよ、こんなとこ)
 だって僕は、本当は。君をこのまま、夢に引きずり込んで迷わせるのが役目だった。
 迷路が消えて、光が射す。僕の背中には、黒い羽がある。



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