Twitter企画にて
書き出し提供・ののえみつさん

 通り過ぎた季節に、未だ足をひたす真似をしていた。薄氷に冷えた足首、赤い爪先。こんな様では歩くことなどできないな。
 悴んだふりをしていたかったのだ、君の去った道を踏むのが恐ろしかった。同じ道のりを、延々と、追いつけずに歩くことを知るのが。
『春になったら迎えに来てよ。私は先に行くけれど、あなたの上に春が降る頃こちらはきっと寒くなるでしょう。ただ一撫で、触れてくれるだけでいい。また会ったなあと、笑って、教えて。あなたの春の暖かさを。そしたらまた、二人で、一人一人、長い道を行きましょう』
 そう言った君が旅立って、どれくらいになるだろう。
 季節はとっくに巡っているのに、僕は今もここにいる。春に背中をひたしながら、水溜まりに足をつからせ、君の言葉ばかり。
 悴む足をもて余したい。温くなる水に溺れて、言いたい。僕には君が速すぎる。ただ一撫で、それがとても、難しい願いだ。


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