私はいつか、煤にまみれた布の一切れに等しく、ぼろぼろに千切れてしまうのだろう。多くのものを纏いすぎて、飾りの一つも纏えないで、最後には睫毛の先まで失うかもしれない。それでも良い、と言いたいつもりはないけれど、それしか手の届く道が無かったんだ、と言えたら少しは幸福だ。果ての涯まで行った結果なのだと、声を張れたのなら。
「なあ、××」
「なあに」
「火」
 貴方を、愛するために手を尽くして、あらゆるものを棄てた。正当な感情は逆流させた。流行の服で身を固めて、誰にでも似ていてその誰でもない形を作った。嗜む気のない煙草も強請った。
「……ん」
すべてはただ一つ、私の名前さえ覚えない貴方に、愛されようとする私であるために。
 無作為を装うようなあどけなさで、その唇に、火のついた私の煙草を押し当てる。染みついた口紅が、薄い唇の上で、やけに赤く不躾に映えた。
 この交流に意味など見つからない。先に向かえば向かうほど、貴方は無に近づいてゆく。存在はここに、始めから一つしかない。私の、くすんだ熱が心臓の形をして、揺れている。それだけなのだ。



るヴァイオレット





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