別離を決めたものは思い出になるから、そこから先は腐らない。不老の記憶は美しいのだ、と、老いてしまった記憶の中で、曖昧に語りかけるのは誰だろう。父か恩師か、あるいは私の生まれるずっと前に生きた誰かの言葉だったか。顔も声も思い出せないその人が、さも何かを共有したように微笑う。
 がたん、と列車は一鳴き揺れた。けれど停まる気配はない。散り散りになった誰かの声が、また舞い戻る。新しい服の襟元に、馴染んだ空気が残っている気がした。靴擦れを押さえた絆創膏の下、熟れる痛みに身を寄せて体はここに立っている。それでも私の意識はまだ、遠ざかるあの町にあるようで。


世界のどこかで生きていく





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