第三章


 セグラノード魔法術学院のベルは長い。約三十秒間に渡って一定の間隔で鳴り響くそれが終わるか終わらないかを競うように、鞄に荷物を纏めるのがここ数日の常になっている。
「エレン、お疲れ様。また図書館?」
「うん」
「頑張ってね。それじゃ、また午後に」
「うん、またね」
ちらほらと席を立ち始めたクラスメートの中に、顔見知りを見つけて短い挨拶を交わすのもお互いに慣れてきた。私は彼女たちに手を振るとドアの近くが混む前に教室を抜け、食堂や中庭へと声を交し合いながら流れていく生徒の波を縫うように、反対方向へ進んでいく。
 あの日、暗号の解読に協力してくれた彼はあれからも何かと図書館へ来ている。出くわしている、というほど偶然なものだと思えないのは、私はこれまでも図書館へ通い詰めていたが、頻繁に会うようになったのはここ数日の話だからだ。おそらく、教壇に立っていない時間は図書館へ来ている。そして、授業のない時間はほぼ図書館へ来ている私と、顔を合わせれば一緒になって“レヴァス”を紐解く。
「……こんにちは」
「ああ、どうも。こんにちは」
「三時間ぶりくらいですけれどね」
「そうですね」
はっきりと訊いたことも、言われたこともないが。そのためにここへ足を運んでくれているようだということくらいは、察することができた。元々は時間を取らせたお詫びに、と見てくれたものだったから、てっきりあの一回きりだと思っていたのだが違うらしい。彼はことあるごとに、図書館にいる。私もいつも通り、そこへ行く。これといった前触れもなく、前回会ったときに読み進めた頁を開く。“レヴァス”の内容はなかなか難解だ。そのため暗号を読み明かしてもらってもすんなりと理解できるものばかりではないが、一番の壁が取り払われたことで、私の禁書解読はかつてないスピードで進んでいる。


- 17 -


[*前] | [次#]
栞を挟む

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -