第四章


ぴくりと、空気がわずかに緊張したのが分かった。勘の悪くない人だ。さあと吹いた風に、薄いオリーブのローブの襟が揺らめく。教授であることを示す学院のバッジが、銀色に光った。
「言いましたよね、私、魔法が怖いんです。だから、魔法を押さえ込む魔法が知りたくてここへ入学しました」
「知っています。でも、それは」
「ええ、使うつもりはありません。法には無理に逆らわないべきだと思っていますから。でも」
「……」
「それと同じくらい、今後たくさん魔法を使うつもりもないんです」
話が、頭の中で繋がったらしい。彼は複雑な表情で私から視線を外して、静かなため息をついた。そのたったひとつの仕草に、胸が痛む。それくらいには、好意や敬意、あらゆる裏切りたくない気持ちを抱いていたけれど。でも、こればかりはいつか言わなくてはならない。ならば、今、早い段階で話してしまったほうが。
「二学年に上がれば、より実習的な授業が増えますよね。私は、その前に学院を辞めるつもりです」
「……初めから、そう決めていたのですか」
「……ごめんなさい。あくまで優先順位が“レヴァス”を読みきることだったから、目処が立つまで言わなかったんです。一人で進めていたら、いくら辞めるつもりだと言っても二年の半ばくらいまではかかりそうだと思っていたので……」
「……」
「これなら、きっと夏には」


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