第四章


「時間を短縮しようとしていただけです。私だって、カロリービスケットだけで生きているわけではありません」
「……」
「……そんなに意外そうな顔、しないでください。レトー先生がもう少ししっかり食事を取るように言われたんでしょう」
「そうでしたね」
「……嬉しそうにされるほどのことでも、ありません」
会話の上下に合わせて不規則に切り替わる表情が、自分のことのように気の抜けた笑みを選び取るから、私はどんな顔をしたらいいのか分からない。一緒になって笑うほどの素直さは兼ね備えていなくて、代わりに落とした視線の先で、弁当箱の隅のトマトをつついた。
 禁書の解読を始めてから、こんなにゆっくりと昼食を取るのは初めてだ。それもこれも、この件に関しては零から百まで一人でやるしかないと思っていたから。閉じてテーブルに置かれた“レヴァス”と休み時間の半ば過ぎを差す時計、それから膝の上で着々と空に近づいていく弁当を見比べて、それとなく口を開く。
「感謝、しています」
「……え?」
「レトー先生に」
箸を止めてそう言ったら、向こうの箸も止まってしまった。合わせてくれなくていいのに、といつぞや思ったことをまた思う。
「私一人の力だったら、“レヴァス”は正直なところ、読みきれなかったでしょう」
「そんなことは……ないと思いますが?確かに効率を上げるお手伝いはしていますが、あなたはまだ一年生です。入学して二ヶ月であそこまで読んでいたのだから、僕がいなかったとしても」
「……いいえ。レトー先生が教えてくださらなかったら、今年中に読みきることは難しかった」
「……今年中?」


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