第四章


ずるいことを、していた。“レヴァス”が入学の目的だと明かしても付き合ってもらえるのを良いことに、解読に必要な知識を粗方教わってから、そう、もう一人でも大体のことを解読できるようになってから、これを読み終えたら退学すると伝えることを決めた。目の前の瞳に、後悔が映っているのが分かる。でも、誤解しないでほしい。
「学院の先生から見たら、生徒の退学を早める理由を作ってしまったって。そう思っていらっしゃるのかもしれませんけれど」
「……ええ。二週間と経っていないですが、あのときの僕を悔いていますよ。あなたに協力しようという考えだけで動いて、それがあなたのこの学院での目的を果たさせ、失わせることだと失念していた」
「……それは、違います。同じだけれど違うの」
「違う、ですか」
「だって私は、本当に感謝しています。このまま“レヴァス”を読みきれずに学年が上がってしまったら、きっと辛いだけだった」
きつく、締め上げられているように息が苦しくなった。伝えたいことはきっと、伝わっている。けれどそれでも、彼は苦い表情を改めてはくれない。早まっただろうか。話すべきではなかったかもしれない、と浅い後悔が渦巻くが、それは違うとすでに出された結論が言っている。そっと、視線を動かす。栞の位置が半分を超えた“レヴァス”。今、言わないでいつなら言えるだろう。きっとそろそろ、彼の協力が減っても一人で紐解いてゆけるようになってしまう。彼もそれに気づいているはずだ。それでも指南を続けてくれているのは、私が“レヴァス”に対するときは熱心な生徒だからだろう。だが、いずれ辞めていくと決めてかかっている生徒のために、これ以上の時間を割かせて良いものなのか。潮時、という言葉が頭を過ぎる。私は目的のために、一時的にこの人を、この人の好意を利用している自覚がないとは言えない。この辺りで、隠し事はすべて取り払っておいたほうが良さそうだ。最後まで利用し尽くして何事もなかったかのように姿を消すには、私は彼に対して、情を抱きすぎた。いい人、だったのだ。踏み込まれることを拒絶しきれない程度に、ささやかに、そして想像よりも遥かに彼はいい人だった。


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