(日高視点)






思い返せばいつも




君は困った笑顔ばっかりだった。

















「じゃあ、この日は演劇部が第一体育館、貸し切りでいいですか?」


「うーん…、生徒会としてはいいけど、バスケ部とバド部がなぁ…」





生徒会室に響く困ったような声。



俺・日高幸也(ヒダカ コウヤ)はそれを眺めていた。

仕事は先ほど片付け、今は手持ちぶさたな状態。

第一、会計の仕事なんて会長ほどあるわけじゃないしね。



最近はお気に入りだった編入生・湊(ミナト)への熱も下がり、ひどくぬるい日常に戻った。

だって、湊にキッパリ振られちゃったんだもん。『ゴメンナサイ』って。湊もなんで俺を選ばないでどこぞの不良なんて選んじゃうかなぁ。しかも、最初は会長に惚れてたらしいし。見る目がないよ、まったく。





ま、もう関係ないんだけどさ。




俺は湊に振られ、また昼はかわいい子を侍らして、夜はセフレ達と楽しんで。

そんな日常に戻っただけ。



ただ一つ変わったことと言えば、最近新しいお気に入りができた。







「じゃあ、今から運動部の方達と交渉してきます」


「そうしてくれ。これだけは生徒会だけで決めちゃダメだからなぁ…」





困ったようにそう言って笑うのは二人。



我らが生徒会の会長。通称不憫の大和先輩。


俺のお気に入りだった湊のハートを一時期奪ったくせに振って、そのくせほぼ全校生徒の集まる中、演劇部の仕掛けた大告白劇場を始めて、結局ハッピーエンド。つまり、(どこがいいのかさっぱりだけど)その時、演劇部の部長だった相模ことさがみんと結ばれた過去を持つ。


つか、過去っていうか最近の話だけどね。それ。




そしてもう一人は、演劇部の部長・美作 光(ミマサカ ヒカル)。

光なんて可愛らしい名前が似合わないような高い身長のくせに、俺よりひょろひょろしてる『あの』演劇部の新しい部長だ。

困った顔が印象的で、最近判明したのは、ため息をつくのが癖ということ。


切れ長の目は漆黒。それなりに整った顔をしていて、どうやら演劇部の看板役者らしい。




あ、ちなみにこいつね。



新しい俺のお気に入り。





俺と会長と美作。

生徒会室にいるのはこの三人。





「みまっちもさ〜、さがみんみたいに運動部に殴り込みに行けばいいんじゃない?」


「ははは…それは無理だ、日高。相模先輩みたいにできたら苦労しない。ていうか、みまっちは止めてくれ」





俺の言葉に苦笑いする美作。


下手に常識があるせいで、個性的な面子ばかり揃っている演劇部のストッパー係を彼は任されている。


だからなのか、美作が浮かべる笑顔は大抵苦笑いだ。


その笑顔を見ると、どうしてももっと困らせたくなるのはなんでだろう。



最近自分は彼に何かと構っている。



「えーヤダ。みまっちでいいじゃん。かわいいでしょ?」


「俺のどこを見てかわいい愛称をつけたがるかなぁ…」




あ、ため息ついたよこの子。


困らせたいけど、ため息は嫌いだ。自分でもよくわからないけど、俺は湊とは違う意味で彼を気に入っていた。


湊のことは守ってあげたかった。


だけど美作は困らせたい。俺に翻弄される姿が見たくて仕方ない。




なんでだろう。さがみんみたいに騒がしくないからかなぁ?





「ため息つくと幸せ逃げちゃうよー」


「そうか。不幸っていうか…最近忙しいのはため息のせいだったのか」


「あは、違うと思うよー。でも、苦労してるねぇ。部長さん」


「公演を成功させるためだし、苦労もそんなに苦じゃない」




その時、勢いよく扉が開け放たれる音がする。

そして、





「ですよねぇぇえ!!!!!さすが美作!」




俺と美作の会話にそう割り込んできた声。


固まる俺と美作を余所に、いきなり響いた大声に一番に反応したのは会長だった。



「相模!扉はもう少し静かに開けろ!壊れるだろ!」

「演劇部のためなら苦労を苦としない!それでこそ部長の鏡だぞ美作!演劇最高!演劇万歳!それが部長!」


「さ、相模先輩…。とりあえず、声をおさえてください」


「おう、可愛い後輩の言うことには素直に従っておこう!」





つか、さがみん、恋人である会長の言葉はスルーなんだね。



心の中でつっこんで、無視された不憫な会長を大爆笑してやる。

マジうける。あの人。


さがみんにシカトされたからって、どよーんとした空気出しすぎだし。



「あ、大和?なにしょんぼりしてんだ?」


「別に…。お前が演劇馬鹿ってことは知ってるからいいよ、もう」




そんな会長に、さすがに相模も気付いたのか不思議そうな顔をしていた。さがみんは鈍感だよねぇ、ホント。


付き合いだしても、この人達は今だにこんなんだ。


恋って大変なんだねぇ。





「それにしても、相模先輩。生徒会室に来たってことは、会長に何か用があったんじゃないですか?」





怪訝そうな顔で美作がさがみんに言う。

するとさがみんはパッと会長に向けていた体を美作に向け、彼の質問に答えるべく口を開いた。


てか、また会長放置されてやがんの。ちょーウケるんですけど。




「ちょうどいいや!お前と日高も夜、大和の部屋に来いよ!」

「「は?」」

「あ、ちょ…相模!」




ニコニコと笑顔でそう告げてきたさがみん。

何故か慌てだす会長をよそに、驚いている俺と美作にある誘いをしてきた。




「今日の夜、大和の部屋で俺の引退の…まぁ、お疲れ様会するから、お前らも来い!」




あー…会長、哀れだなー…。




内心そんなことを考えながら、俺は会長を見やる。すると、絶望的な顔をした会長がそこにはいた。ハッ、だっせー。




「あ、じゃあ…日向達も連れてきます?」


「おぉ、それがいいな!人数が多いが楽しいだろ!」




何もわかってない美作と相模はどんどん話を進めていく。

比例してどんどん絶望で顔を染め上げていく会長。




「御愁傷様。会長は今日さがみんをついに押し倒したかったのかなー?」


「ほっとけ…」




俺が小言で話し掛ければ、机に突っ伏してしまった会長。




ホント、恋って大変なんだねぇ。


















「相模、眠いのか?」


「んー…」





あれから夕食の後、せっかく呼ばれたし、美作も行くようだし、と俺も会長の部屋にお邪魔した。字面通り、ホントにお邪魔したのだけど。



ついでとばかりに北見先輩やら武蔵やらも呼んで、美作も日向やあの変に騒がしい因幡を連れてきていた。演劇部って仲いいよねー。



そんな風に年頃の男子高校生が揃えば、必然的にお酒を誰かが持ち出してきたりするわけで。




そうなると、アレだよね。




泥酔するヤツが出てくるわけだ。






「ねー副会長さん笑って笑って笑ってぇぇえ!!鬼畜な感じで冷たい微笑を浮かべてぇぇえ!!俺に萌をちょうだいぃぃ!」


「なんですか…喧しくてかまわないんですが。すごく…頭に響きます」

「ん。北見先輩、お酒弱かったんだ。以外」


「武蔵、なんかいつもより早口?ま、いっか。アハハハッ!なんか僕超楽しくなっちゃった!」






カオスだ。


ここに広がってるのは混沌だ。





「武蔵!北見!お前らはもう帰れ!因幡と日向も意識があるうちに部屋に戻れ!」



船を漕ぎはじめたさがみんを抱き寄せながら、そう怒鳴る会長。

酔っぱらいだから素直なのか、名指しされた奴らは口々に「はーい」と返事を返し部屋を出ていく。




「日高、お前素面だろ」


「まぁねー」




ぶっちゃけ全然酔ってない俺と会長。


しかし、現在この部屋には先ほどの奴らよりも酷い泥酔者がいる。


それも二人。




「頭痛い…」


「相模、もう寝ろ。今日は俺の部屋に泊まっとけ」



一人は先ほどから眠気を会長へ訴えるさがみん。



「日高。素面なら美作のこと部屋に送ってやってくれないか?」




会長がそう言って目で促してきた先、そこにもう一人の泥酔者・美作がいた。




「………う…ん」


「うわ〜みまっち、完璧に潰れてるね」


「だからお前に頼んでんだろ。早く部屋に送ってやれって」




いつも困った表情しか浮かべない美作の顔は、今は酔いつぶれているからか少しだけ頬が赤く、悩ましげに目をつぶっていた。




「んー…―――わかった。部屋に連れて帰るよ」


「そうしてくれ。今日は俺はもう寝る」


「さがみんと、ね?」


「…うっせぇ!早く帰れ!」

「はいはい。おやすみー。みまっち行くよー」


「う……」




美作に肩を貸しながら立ち上がる。


酒臭かったけど、いつもよりも近い位置にある美作の顔に何故か胸が高鳴った。変なの。



引きずるように美作を連れて部屋を出る。





「…ん?部屋に『連れて帰るよ』?」




だから会長が呟いた言葉は、俺には届かなかったけどね。



ま、確信犯ってやつ?

ちょっと違う?






************




酔いつぶれてフラフラな美作を、ゆっくりとベッドへ横たえる。


するとゆっくりと瞼をあげた美作は、ぼんやりと俺に視線を寄越した。




「ここ……どこ」


「俺の部屋の寝室ー」


「そう……」





呟いて美作はまた目をつぶる。暑いのか、自ら覚束ない手つきでワイシャツのボタンを外していた。帰るつもりだったのか、彼は制服で会長の部屋にきていた。



やっぱりお酒って偉大だよね。普段しっかりしてて冷静な美作が、俺の部屋のベッドに横たわってるってことに疑問を浮かべないんだから。




「みまっち、暑いの?」


「ん…暑い…」





ギシリ、と俺がベッドに乗り上げる音が部屋に響く。


思わずごくり、と唾を飲んでしまった。


目を薄く開く美作。漆黒の瞳が綺麗な涙の膜に覆われていた。




「ひだか…」




舌っ足らずな口調。酒ってホントすごいよ。いつもはぴっしりと着ている制服を着くずし、鎖骨を晒す美作にはいつもは感じない色香があった。




「あつ…い…」



吐息は熱を含んでいて、艶やかで、まるで情事を連想させた。


そこまで考えたらもうダメ。




「―――ねぇ、脱がせてあげる」


「んぅ……?」







この時の俺は、ただ目の前にいる美作がいつもと違う色気を纏っていたから。


だから、思わず触れてしまったんだ。




俺、ぶっちゃけセックス上手いし?

きっと美作も気持ち良くさせることができるし、そうすれば彼も嫌な気はしないだろう。だって、どっちも気持ち良くなれるなら最高じゃない?





朝起きたら、きっと美作は困った顔で笑うんだろうなーって思って俺は彼の制服を丁寧に脱がした。





「美作……」


「ひだ…か?」






後はご想像通り。


目の前にいる据え膳を食わないヤツはいないよねぇ?









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