パンツの話。
短気×したたか
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俺はそれを目にした瞬間口を開かずにはいかなかった。
「なんだこれ」
「パンツ」
そんなのはわかってる。
愛をこめて
(それはとある愛のある話)
目の前にはどこか満足気な顔で床の上に正座をしている俺の恋人。そして堂々と差し出される『パンツ』。
蛍光ピンクに水色の可愛らしい象の柄。一言でいえば、ダサい。もうちょっと付け加えるなら、かなりダサい。
「……てめぇのか?」
「違うよ。君の」
即座に返された否定に俺は頬をひくりと引きつらせる。冗談だろ、と言うように微笑みかければ恋人もニッコリと微笑んでみせた。
「嬉しいでしょ? 僕からの愛をこめたプレゼントだよ」
その言葉に、あまり気が長くない俺の目が釣り上がる。
「プレゼントだぁ? 明らかに嫌がらせだろうが!」
苛立ちながら怒鳴るように言い返せば、恋人は不服そうに眉をひそめてみせた。
「なんで嫌がらせなの。こんなに愛のあるプレゼントはないのに」
「この柄を、お前は俺にはけっていうのか!」
「あたりまえでしょ。そのためにプレゼントしたんだから」
ニッコリと微笑み続ける恋人に、怒りがわくのと同時に少し焦りが生まれる。沸騰しかけの思考を落ち着かせ、もしかして俺はこいつに何か怒らせるようなことをしたのだろうかと脳内検索。だがしかし、ザッと記憶をあらってみても、該当するようなものは俺の脳に浮かびもしなかった。
さっぱり意図がわからない。
「なにがしたいんだてめぇ…」
脱力して、吐き出すように聞けば恋人は少しだけ深い笑みをその顔に浮かべてみせて、楽しそうに口を開く。
「浮気防止、だよ」
「は?」
意味がわからないと俺は恋人を睨む。しかし、彼はそれに怯んだ様子もなく、ますます楽しそうに笑い、説明しだす。
「そんなパンツはいてれば、僕以外の前で服なんか脱げないでしょ?」
これで君は一生僕以外とセックスできなくなるって寸法さ!と愉快そうに笑い転げる恋人の、その台詞に、俺は少しだけ目を見開き驚く。でも、次の瞬間には胸がむずかゆいもので埋め尽くされるような感覚に襲われて、たまらずに、ため息。
「……つーか、てめぇの前でも嫌だっつーの」
「なんで。僕が買ったのに恥ずかしいがる必要ないじゃん」
「や、まぁ、そうだけどよぉ……」
なんだこれ。顔が熱い。てゆうか、普段そんな素振りを欠片も見せないくせに、こんなふうに独占欲を見せてくれるなんて、思いもよらなかった。可愛くないことばっか言うし、好きだなんてまともに言われたこともない。
だけど、こんな変な柄のパンツを買うくらい愛されているんだと、実感する。
「……恥ずかしい奴め」
「え、なに。なんでそんなこと言われなくちゃならないの」
愛しくて、愛しくて、拗ねたようにとがらせた唇を、俺は思いっきり引き寄せた。
END
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浮気防止のために変なパンツやるよって話。
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