・最初に謝っておきます。申し訳ありません。あと、R18です。
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それは突然のことだった
「!」
カインが気付いたときには、すでにモンスターの腕が彼の足を絡めとっていた。
その腕は、最早腕と言っていいものなのかカインには判断できなかったが、便宜上、腕と呼ぶほかない。大きな花のような見た目に、ギザギザの葉、そして、腕とおぼしき粘液に覆われた太い蔓。植物系のモンスターだ。
森の中、獣道を進んで街を目指していたが、一向に行き先が見えてこないため、手分けして道を探していたことがあだとなった。普段は仲間が気付いてくれるような、気配の薄いモンスターの存在を忘れていたなんて。
カインは自分のうかつさに舌打ちしたくなったが、それどころではない。戦士系である仲間のように、僧侶である自分は力があるわけではないのだ。
モンスターに捕まったら、自力での逃亡がひどく困難である。どれだけの威力を与えるかわからないが、神聖魔法を使うしか脱出するすべがない。
カインは仕方なく呪文を詠唱すべく、口を開く。しかし、声は発されることなく終わる。
「なっ――んんっ!」
モンスターの腕が彼の口に入り込む。粘液が口の中に広がり、カインはひどい苦みを舌に感じた。それにともない、カインの身体に絡み付くモンスターの腕の数が増やされていく。
呪文を唱えることを封じられ、カインは顔を青ざめる。これから自分はどうなるのか、僧侶として常に仲間と共にいて、仲間の庇護を受けていた彼には予想がつかなかった。
「んんっ!」
せめて口の中のものを吐き出そうと激しく首を振ってみるが、むしろ体に巻きつく腕の力が強まって、拘束がきつくなる。
精一杯、力の限り暴れてみるが腕は緩まる気配を見せない。カインの抵抗に苛立ったのか、腕は彼の顔まで固定し始める。首に巻きつくモンスターの腕の感覚に背筋が凍った。
首を絞められたら、死ぬ。その考えがカインの抵抗を弱めさせた。
触手はおとなしくなったカインに満足したのか、ゆっくりと彼の体を這うように腕をからみつかせる。
その服の上から体のラインをなぞるような動きに、カインは嫌悪感が募っていく。
どうしたらいい。どうすれば、逃げられる。ぐるぐると答えの見つからない問いが頭の中を駆け巡る。
ほんの少し前まで共にいた仲間の顔を思い返す。いつも頼ってばかりいたのだろうか。だから、こんなとき、自分一人では対処できない。
情けなくて、悔しくて、「助けて」だなんて思えなかった。
なんとか、自力で。
そう考えて、カインはモンスターの特徴を探る。
腕のような弦は、地面から生えていた。もしかしたら、地中に本体が埋まっているのかもしれない。
おそらく自分を捕まえた理由は捕食目的のはずなので、放っておけば本体に近づけると思われる。そのときに本体を叩けば、隙が生まれるはず。
あえてここは抵抗せずに、本体に近づくことを優先した方がいい。
カインは力を抜いて、自分にからみつく腕に身をゆだねる。すると、腕はカインの体を持ち上げ、ゆっくりと引っ張っていく。
持ち上げられたことはカインにとって予想外で、自分のことを食べるわけではないのならどうして捕まえたのだと、彼はモンスターの真意を測りかねた。
やがて、彼の体は本体が埋まっているだろうと予想される地面の真上まで運ばれる。
地に足がついていない状態は、カインの心を不安にさせた。奇妙な浮遊感に苛まされながら、彼はモンスターの動きを注視する。腕はあいかわらず彼の体を無意味に這っていた。
しばらく、モンスターはカインの様子を見ているようだった。しかし、彼が抵抗しないとわかったのか、モンスターの腕は唐突に動きを変化させる。
「――っ!?」
緩慢な動きで体を這っていた腕が、いきなり、裾からローブの中に侵入してくる。布とう隔たりがなくなって、直接肌の上をモンスターの腕が動き回る感覚がカインを襲う。
ぬるりとした体液が素早くこすりつけられていく。
いったいそれが何を意味するのか、世界の異変を探ると言う名目で生まれて初めて村の外に出てきたばかりのカインには見当がつかなかった。
仲間たち――とくに、傭兵として各地を旅していたマナ、モンスターハンターとして活躍していたコリンなら、このモンスターがどんな習性を持つか把握しているのかもしれないが。
仲間と自分を比較する思考は尽きない。これがもし自分でなければ、仲間の誰かだったなら、こんなふうにみじめに捕まることなんてなかったのかもしれないのだから。
腕は怪しい動きでカインの体を撫でまわす。敏感な脇腹やへその周りをなぞるその動きに、カインは体を震わせた。
やがて、彼の体に伸びてくる腕は数を増やしていく。その数が十になろうとしたとき、邪魔だと言わんばかりに腕がカインの服を勢いよく裂いた。
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