・副会長(→)←会長
・BADEND
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酷薄という言葉しか浮かばない。




彼を見た最後。その顔に浮かんでいた鮮烈な笑顔を僕はいまだに忘れられない。

彼と友好的な会話をしたことなんて、0に近い。僕達は彼を忌み嫌い、彼を肉体的にも精神的にも害した。憎悪の炎で瞳を光らせ、彼を射殺さんとばかりに睨みつけていた。

それなのに、今だに僕の目蓋から彼の最後の表情が焼き付いて離れない。



それは真っ黒に焦げた匂いがする記憶だ。だって、彼と会ったのはあの日が最後だったのだから。僕達は憤怒も謝罪も彼に告げることはできなかった。なぜなら、僕達は彼に近寄ることが許されていない。

もちろん、僕らの大切なあの子もそこに含まれている。もっとも、あの子は彼のことなんて忘れてしまっていると思うから、許されていなかろうが許されていようが、あの子にはもうどうでもいいのかもしれない。あの子は『今』しか見えていないから。




そんなあの子を、僕は面白いと思ったんだ。



そうだ。


最初は、面白い子がいるなって、それだけだったんだ。



僕は生徒会の副会長なんてやっていて、周りからいつも遠巻きにされていた。だけど、同じような人間が生徒会にはたくさんいたから、僕は現状にそれほど不満はなかったんだ。


なにより、生徒会の頂点に君臨していた彼があまりにも眩しくて、そんな彼とともにいられるだけで満足だったんだ。僕は。おそらく、仲間のみんなも。


だけど、そんな毎日は唐突に終わる。

仲間でも、崇拝の対象でもなく、友人という存在に憧れていた僕たちは、ある日転校してきたあの子に夢中になった。それこそ、生徒会の仕事をほうり出すほど。

はじめは、面白い子がいるから、その子のことを、生徒会にいるみんなにも知ってもらいたいって、そんな単純な気持ちで紹介した。

そうしたら、あれよあれよとみんなはあの子の虜になって、僕は得意げな気持ちになる。あの子は面白い。ね? 僕の言う通りだったでしょう? ってね。

だけど、ただ一人、彼だけはあの子に冷たい視線を送った。

僕は焦って、彼にもあの子をよく知ってもらおうと生徒会室に連れて行ったりしたけれど、彼は怒って僕とあの子を部屋から追い出した。

そして、彼に怒鳴られて茫然とする僕に、あの子は彼を罵る言葉を告げた。あいつはひどいやつだな。せっかくお前が遊びにきたのに、怒鳴って追い出すなんて。僕はその言葉を聞くと、どす黒いものが胸を支配した。



そうだ。彼が悪いんだ。僕を蔑ろにした、僕を拒んだ、彼が。



それからは、彼を頂点から引きずり落とそうと躍起になった。さいわい、仲間たちは僕に協力的だったので、あまり苦労はしなかった。あの子を生徒会長に。あの子を頂点に。そうやって動いているうちに、学園内は以前と違ってピリピリとした空気に満ちる。だけど僕は、一向に僕を見ない会長に不満で、そんな空気は気にしてなかった。



「リコールします。あなたを」

「そうか」



あの日、生徒会室にいた彼を、僕は睨みつけた。あの子や仲間は各委員会を懐柔したりと、他の仕事がある。それに、彼に最後通牒を突き付けるのは副会長である僕の役目だとかって出た。



「驚かないんですか? 抵抗、しないんですか?」

「しねぇよ」

「意外ですね」

「意外、か……ククッ」


彼は自嘲するように短く笑った。僕はなにがおかしいと言わんばかりに、彼を睨む目をますます吊り上げる。

彼はそんな僕を見て、複雑そうな顔をした。


「俺はなあ、結構、一途なんだぜ」

「それがなんですか」


僕は、いきなり話を変えた彼に困惑していた。けれど、それを表面には出さないよう、つとめて険しい顔を保つ。

彼は切なそうに目を細めたあと、ひどい顔で、ひどい、そう、ひどいとしか言いようのない笑顔を浮かべたんだ。



「俺は裏切られても、好きなやつを嫌いになれなかったんだよ」



僕はその言葉に息をのむ。待って。どういうこと。動揺した無言になる僕に構わず、彼は言葉を続けていた。


「知ってたよ。リコールなんて。もう学園を出ていく準備はできてる。次の転校先も決まってる。明日には俺はここを出ていく」

「あなたは……それでいいんですか?」


馬鹿な質問だ。追い出そうとしているくせに、なぜそんなことを聞くのか。

彼もそう思ったんだろう。

にっこりと、鮮烈なまでに艶やかに、苛烈な笑みを彼は浮かべた。そうだ、それが酷薄の笑顔。



「好きなやつの最後の頼みなんだから、精一杯、叶えてやりたいじゃないか」





あれから、彼は二度と僕らの前に姿を見せなかった。学園を去った彼を、ひそかに僕は探したのだけれど、どうあがいても彼の情報は手に入らなかったのだ。


学園は、あの子が会長になって変わった。従来の伝統はことごとく覆され、革新的な行事が増えた。仕事も多くなったが、ピリピリした空気はなくなって、以前より活気のある学園になったので、結果的にはよかったのだろう。


あの子も、仲間たちも、毎日楽しそうだ。



だけど、僕は今でも忘れられない。


あの頃、太陽みたいに眩しかった彼の笑顔も。最後の表情も。




なにより、あの告白が。



END

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・BADすぎるEND
・会長いなくなっても、毎日は楽しいよ、でもね。みたいな話。
・王道くんは裏表のないいい人で、会長は、最後にしか素直になれない、あまのじゃく。


 

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