あまりにも非王道的な王道話のプロローグ的なもの。
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転校か。




いや、ね。

まさか小さな会社経営のしがないエセ社長だった父親が『会社が成功しちゃってさー、海外に進出したいんだよねー』とか言いだすなんて思いもしなかったわけなんだわ。


しかも母親まで『あらー、じゃあ私も着いて行かないとね!だって離れたくないもの!』なんて言い出しちゃうとか。

おまけに父親の方も『僕も君がいなきゃ生きていけないよ!』なんて言いだすし。




……ふざけんなよマジで。俺この前高校入学したばっかなんだよ。しかも超頑張って勉強した進学校。だから海外なんていきたくねーから。今までの努力かき消すとかマジでないから。意味わかんねーから。




そんな頭に年中花咲いてるバカップルな親共に毒吐いたら、『じゃあ僕の弟がやってる全寮制の男子校に入学しちゃいなYO!一応あそこもレベルが高いとこだったし!』『大丈夫!要ちゃんの学力なら編入試験もバッチリ通るわよ!』なんて転校を強制された。抵抗は意味をなさず、俺は晴れて人生初の転校を経験する羽目に。マジでふざけんなよあの馬鹿親。







「……でっけー正門」




ポツリと呟いた言葉は空気に拡散して消えた。



目の前には荘厳だとか豪華だとかの二字熟語が似合うでかい正門。






そんなわけで、俺は今、胸中で両親をボロクソに罵りつつ転校先の『私立青峰学園』の正門前にいるんですよ。展開が早いことに。




「あー…、なんだ。とりあえず、守衛さんとかいないのか?」



キョロキョロと戸惑いつつ辺りを見回すが誰もいない。しかも案内図とか看板までない。来訪者に不親切だなおい、と思いつつ俺はため息をついた。帰りたい家に。帰れないけど。





そして、それは突然聞こえてきた。




『相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後に額つくごとし』


「は?」




いきなり聞こえた人の声に驚き再び辺りを見回せば、正門の上に人が座っていた。なぜそこなんだ。てか、危ないぞ。


自分と同じ、品のあるブレザーを身に纏う彼は黒髪黒目、俺が言えたことではないが地味な部類の顔立ちをしていたが、雰囲気がどこか大人びている。まさか先輩か?


そんな彼は、戸惑う俺の様子も気にせずとうとうと解説じみたことを口にし始める。というか、彼は俺に気付いていないようで視線は別のところにあった。




『自分を思ってもくれない人に一方的に思いを寄せるのは、ちょうど寺の餓鬼を後ろから額を地につけて拝むようなものです。まさに彼のこれからにピッタリじゃないかなぁ。まぁ、心情は彼の周りの人なんだけど……』


「…和歌?」




俺がふと気付いて問えば、彼はやっと俺に気付いたようで驚いたようにこちらに目を向ける。




『作者は笠女郎。万葉集にのっているよ』


「その和歌が、なんだっていうんだよ」


『振り向いてくれない人を思うのは苦しいよねってことさ。だから、君は誰かに振り向いてあげるべきなんだ』


「……はぁ?」





意味がわからなくて俺は眉をひそめる。それでも彼はそれを気にも止めていないようで俺をじっと見つめる。



『君は僕が見えてるみたいだね』


「なにトチ狂ったこと言ってんだ、お前?」




あ、先輩なら敬語使わなきゃマズいじゃん。しくじった。でもなんかちょっと変人臭いし、これから関わないでいりゃいっか。


そんな失礼なことを考えていると、彼は不機嫌な表情を浮かべる。え、心の声漏れた?




『非常にやっかい。最悪だね。まさか数馬くん以外に僕が見える人がいるだなんて』


「お前さっきからなに言って…」


『おそらく君も数馬くんと同じく抵抗するんだろう。だけど、関係ない。君には“編入生”の役割をしてもらわなくちゃいけないんだ』


「役割……?」


『まぁ、せいぜい頑張るんだね“王道”くん。君はもう逃げられない』




鮮やかに笑うと、彼は不可思議な言葉を残しそこから忽然と姿を“消した”。


驚いてガチャンと正門の柵にとりつき、彼が柵の向こう側に落ちたか確認すれば、そこには誰もいなく、俺は背筋に冷たいものが流れた。



一体、彼は何者だ。





「やぁ、君が編入生かい?」




そう言って胡散臭い笑みを浮かべる案内係の生徒会副会長が来るまで俺はずっと柵の向こう側に彼がいないか探し続けていた。
















――――――――――――








「要!さっきぶりー!」


抱きつくなよ下半身ゆるゆるの遊び人野郎。女の敵が。いや、ここでは男の敵か。会計なら会計らしく電卓で遊べ。


「要から……離れて」


おうもっと言え。もっと強くこの遊び人に注意しろ無口書記。だがどさくさに紛れてお前まで俺に抱きつくな。


「要、お昼はまだですか?一緒に食べましょう」


うわ……、初日の胡散臭い笑みも裸足で逃げるほどニコニコと笑われるとなんかちょっときもいです副会長。正直。





現在夜の食堂。夕飯中。


隣にも背後にも前にも美形。

そして周りから変に注目されています。



ふざけんな美形共。空気読めよ馬鹿野郎。








あれから数日、俺はなぜか男子校でハーレムを作り上げていた。誰かツッコめ。『男子校でかよ!』って。全く笑えないのが残念で、これはマジ話であるのだが。



あの日、あの変な古典野郎に会ってから妙なフェロモンが俺から出てるのかあれよあれよと男が俺に求愛し始めた。なぜ。


しかも、ことごとく求愛してくんのは美形。平凡顔の俺に喧嘩売ってんのかと言うほど美形ばかり。美形なんて爆発してしまえ。


そのせいか、今だに友人0。この学園は男子校ゆえにかホモやらバイやらがたくさんいるせいで美形共には親衛隊だかがいるらしく、俺は親衛隊から目の敵にされてしまっている。かなり不本意。妙に可愛らしい生徒達から毎日嫌がらせをうけるし、ここは大奥かよと内心ツッコむこともしばしばある。


おかしいことばかりだ。この学園は。



しかし、おかしいのは周りと学園ばかりではない。





「だぁー!!もう、お前らうるさい!いい加減はーなーれーろー!!」

「要、照れてるの?かわいいなぁ〜!!」

「要……かわいい」

「ほら、2人とも要が迷惑してます。席について早く食べなさい」


「副会長!助けてくれてありがとな!」





な に が

ありがとな!だ。



満面の笑みで年上の副会長にため口をした自分をぶん殴りたい。


そう、おかしいのは周りだけではない。自分もなのだ。



まず初日だが、副会長にいきなり俺は口が勝手に動きだし「その笑顔胡散臭い」とバッサリ言ってしまった。内心青ざめていたが、副会長はその後なにを思ったかキスなんて俺にかましてきやがった。泣きたかった。


その後会った無口な生徒会書記とは、なぜか適当に会話したら彼の言ってることが理解できてるってことになってた。ここからもう俺は自分の口が勝手に動いてるとはっきり自覚し始める。俺は初対面の野郎を名前呼びするほど礼儀しらずじゃない。


次に会ったのは遊び人の会計。セフレと修羅場ってたとこに出くわして内心その場から速やかにサヨナラしたかったのに、口と共に手が勝手に動きだしその場で会計を殴り、長ったらしい説教をおっぱじめ会計に気に入られてしまった。


それに、口調がもう全然違う。今までの俺の口調はどこへ行ったのか、甘ったれたことばかり言う妙なハイテンション口調。もう最悪すぎて頭が痛い。だけど表情にそれはでない。なぜなら身体も勝手に動くからだ。


なにかがおかしい。


だけど、それを口にすることはできない。




そんなもどかしい日々を俺はこのところ過ごしていたのだった。







「そういえば、お前らの会長ってどんな奴なんだ?」




また口が勝手に動く。

げんなりしていると、いつもニコニコしていた副会長がしかめっ面をする。珍しいな。たしか、俺、会長とは会ってなかったっけ。



「つまらない方です。今も1人で生徒会室で仕事してる仕事馬鹿ですよ。要は気にも止めなくていいんです」




早口で副会長が答えれば、他の2人もそれに同調する。

仲悪いのか?なんて呑気に考えていれば、俺の身体まで勝手に動きだしてしまう。


バン、と食堂の机を一叩き。


「仲間のことを悪く言うなよ!最低だぞ!俺、会長と会ってくる!きっと今、会長は1人で寂しいに決まってる!」




そして呆然とする3人をその場に残し、俺は走りだす。




………晩ご飯、まだ食べたかったのに。















「会長いるか!?」



ところかわって、生徒会室。


ガラリと勢いよく扉を開け放つと、そこはびっくりするほど広い生徒会室で、探し人は中央奥にいた。





「誰だお前」





めっちゃ怪訝そうに俺を睨むのは、やっぱり美形。だから、俺はもう諦めた。こいつもあいつらと同じなんだろうな、と。




だから、次の瞬間本当にびっくりしたんだ。






「あぁもうなんなんだよふざけんなよマジ爆発しろよ美形共。なんなのこの学園俺に喧嘩売ってんのかよなんで俺が美形共に求愛されにゃならんのだ意味わかんねーんだよこんちくしょー!」





ゼイゼイと一息で言った後、俺はぽかーんとしてしまう。

おそらく会長席に座る美形はまさしく会長なのだろうが、そいつもぽかーんとしててちょっと笑えた。





「あれ?俺、話せてる?」

「あ、あぁ。普通になんか愚痴ってたぞ?」




不思議なことに、なぜか自分の意志で思い通りに話せることに感動してまった。


そして、困惑するその場にあいつが現れたのだ。




まさしく突然に。




『あーあ。やっぱり2人を引き合わせなきゃよかったなぁ。まさか、要くんの術が解けちゃうなんて、困るなぁ』




クスクス笑いながら話す彼は、地味顔の変人。転校初日で目の前から“消えた”あいつだった。


突然文字通り“現れた”彼に驚いて声も出ない俺をよそに、会長は立ち上がり怒りだす。



「出たな古典野郎。早くこの学園にかけた変な術を解きやがれ!」


『嫌だよ。君はおとなしくそこの要くんと結ばれなよ』




術?結ばれる?



混乱する俺を見て、古典野郎と呼ばれた少年は綺麗に笑う。




『可哀想だから説明してあげる。……君はね、“王道編入生”としてこの学園の権力者に惚れられ、最終的にこの生徒会長の一ノ宮数馬くんと結ばれる舞台にあがってしまったんだよ』


「は?」


『全ては僕の思い通り。だってここでは僕が“神様”だもの』




軽やかに笑うと、神様と名乗る少年は一ノ宮数馬というらしい会長を見る。



『まぁ後は君が説明しなよ。どうやら要くんは術が解けたみたいだし、共闘するなりすればいい』


「そうさせてもらう。だからさっさと消えろ」


『せっかちだね。まぁ、運命には逆らえないから。それは忘れないでね』



クスクス笑いながら、現れた時と同じく神様は唐突に“消えた”。




「一体、なんなんだよ……」




現実離れした光景に、へたりと座り込めば一ノ宮数馬が俺に目を向け口を開く。




「お前も運命を変えようとしてみないか」、と。








この瞬間に、俺・葉月要の運命は既に決まっていたんじゃないかと実は思う。




END

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長編にしようとしてたけど未完ばっかなのに新たに長編書くのはどーよ、と思ったのでボツにした話です。もったいなのでここに。



(20110328)

 

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