「………」



おもむろに、手に握り締めていた封筒を俺は開けた。


白いそれは、ずっと握り締めてしまったせいでぐしゃぐしゃで、あけずらかったけれど、ちゃんと中身を出すことはできた。




「――――!!」




そんな封筒に、入っていたのは二つ折りの小さな紙。


たった一文字、書かれていた言葉。








“Happy birthday”










0時を過ぎた住宅街に、クシャリと紙を握り潰す音が響く。





『黄泉の日』の最終日の、翌日。






それは俺の生まれた日で。


俺自身は、今の今まで忘れてた日。





椎那は覚えていたのだ。


あの日の、約束を。





あの雨の日、椎那が事故にあった日。






一番に俺の誕生日を祝ってくれるという、約束。






「……っ…」





“俺のことを思い出にして”



椎那の囁く声が聞こえた気がする。






会いたくて、苦しくて。



でももう椎那はいない。



季節がすぎて俺はやがて大人になるだろう。


椎那を思い出として胸に抱いて…生きていく。




大切で大事な一番の友達。




だけど今、俺は気付いた。




「…―――し……い、な」




俺は、ずっと、ずっと。



椎那の死と共に、あることを認めたくなかったんだ。




「…う…っ……あ…ぅっ…」




好きだった。



ずっと、ずっと。



俺は椎那が好きだった。









なのに、なのに……。








―――…どうして?



「…う…っ…」



溢れた。アイツが死んで、初めての涙。


こんなにも切なくて、こんなにも理不尽で。



あんまりだった。






耐え切れずに、しゃがみこむ。封筒も紙もぐしゃぐしゃで、でも、そんなことも気にすることができなかった。




いらないよ。






いらない。いらない。



……いらない。






『黄泉の日』なんて、いらない。








いらなかった。







嗚咽が夜の静寂に溶けていく。涙は堰を切ったようにとめどなかった。春とは言えども夜中は寒い。でも、立ち上がれそうにない。




『黄泉の日』なんて、必要ない。






だって、何故?






どうして、大切な人との別れを二度も経験しなくちゃいけない?

身もはち切れそうな悲しみを、二回も味わうなんて、嬉しくない。





嬉しくないよ。





ねぇ、神様。どうして?



どうして『黄泉の日』なんてあるんですか?






別れなんて、一回でいいから…。




どうか苦しまないで、悲しませないで。




こんなにも辛い思いをするのなら、いらなかったよ。こんな日。




こんなプレゼント、いらなかったよ。




「椎那っ……!!」




戻らない。


そんなこと、わかっているのに。

呼んでしまうのは、アイツの名前。




幻でもいい。夢でもいいから戻ってきて。



そう思うくらい、悲しくなるなら、『黄泉の日』なんていらなかったよ。



涙は枯れない。枯れそうにない。


今まで泣かなかった分まで流すように、涙は止まらなかった。



悲しくて、悲しくて。



だって、椎那は二度と俺の前に現れないから…。




きっと、椎那の言うとおり思い出にしてしまえれば、懐かしめるのに。






今は悲しみしか、感じないんだ。




 

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