(和志視点)
結局、俺達はいつまでも『思い』に縛られたまま。
神様、神様。
どうしてですか?
「天気、いいな」
「そうだな…」
昼下がりの屋上。
立ち入り禁止の鍵をこじ開けて、俺と七瀬はそこにいた。
『黄泉の日』から一週間。
街にも、俺達にも、『日常』が戻ってきた。
学校に毎日通って、普通に授業を受けて、受験生だから、わからない所を職員室まで聞きに行ったりして。
そんな普通の『日常』?
結局、俺達はいつまでも『思い』に縛られたまま。
神様、神様。
どうしてですか?
「天気、いいな」
「そうだな…」
昼下がりの屋上。
立ち入り禁止の鍵をこじ開けて、俺と七瀬はそこにいた。
『黄泉の日』から一週間。
街にも、俺達にも、『日常』が戻ってきた。
学校に毎日通って、普通に授業を受けて、受験生だから、わからない所を職員室まで聞きに行ったりして。
そんな普通の『日常』に、椎那の姿はない。
あの日から、椎那は本当の意味でこの世を去った。
二度と彼は、現れない。
「なぁ、和志」
「ん?」
長い沈黙を破り、七瀬が口を開いた。
俺に背を向けているため、どんな表情を浮かべているのかはわからない。
「俺、さ…」
「うん」
不意に、あの日椎那に言われた言葉が蘇る。
『ずっとお前が好きだった』
「ずっと…椎那が好き、だったんだって気付いた」
七瀬の言葉が、あの日の椎那の言葉に重なって聞こえた。
「――…そっか」
俺は静かに、それだけしか返せずに上を向く。
椎那、聞こえたか?
七瀬はお前が好きなんだって。
一端話しだしたためか、その後七瀬は流れるように話しだす。
「椎那は、…自分を思い出にしてって、俺に言ってきた。…だけど、無理だ。無理だよ、和志」
「…そうだな」
「俺…椎那に言えなかった」
「………」
「椎那に好きだって、言えばよかったのにっ!」
叩きつけるように叫んだ七瀬。
その肩は、震えていて。
俺はどうしよもなく苦しくなって、…悔しく、なって。
同時に悲しさも、胸を襲って。
堪らなくなって、思わず七瀬の頭に手を置いて、優しく、優しく…撫でた。
「…無理に思い出にしなくていい。ゆっくり、アイツの願いを叶えてやろう」
「っ…あぁ」
そう返事をした七瀬は泣いていた。
葬式の時でさえ泣かなかった、七瀬が。
俺はそんな七瀬の頬を滑り落ちる涙を拭いたい衝動を堪えた。
なぁ椎那。
お前は知ってたから。
俺が誰を想っているか、知ってたから、生きてる間は言えなかったんだよな。
俺への気持ちを。
でも、七瀬の気持ちは知らないんだろうな。
「椎那……」
ポツリと七瀬が呟いたのは、アイツの名。
俺の『親友』の名前。
なぁ七瀬、どうしてだろうな。
叶わないというのに、恋しい気持ちは募るばかりで。
君を想うがゆえに、俺も椎那を思い出にはできそうにないんだ。
「神様は…意地悪だ」
俺は上を向いてそう言う。
七瀬もこくりと頷いたのが、撫でていた手から伝わる振動でわかった。
七瀬は椎那が好きで、
椎那は俺が好きで、
そして俺は、七瀬が好きで。
そうして椎那は死んでしまい、誰にも決着がつかない現状。
俺は七瀬に想いを告げられず、七瀬もまた一生告げられない想いに苦しんでいて。
…消えてなくなれば、よかったのにな。
「和志……?」
「ん?」
「―――泣いてんのか?」
七瀬がそう問い掛けてきたが、俺は無言で返す。
上を向いて見上げた空は、滲んでいてぼやけた青を俺の目にうつしていた。
神様、神様。
どうしてですか?
どうしてこんなにも、苦しい恋をしているのに。
諦めさせてはくれないんですか。
俺も、七瀬も。
そして椎那も。
俺達三人を捕らえて離さない『想い』の柵も、あの『黄泉の日』に消えた人達と共に消えてしまえれば、楽だったのかな。
椎那、お前はどう思う?
お前を思い出に出来そうにない俺達を、許してもらえるといいのだけれど。
END
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