個人的なまさかの事態が発覚しても、グリーンな僕の日常は変わらない。

相変わらず、副業の配管工の業務をする傍らで正義の味方をやっていた。


まぁ最近は敵の出没がだいぶ減っていて、配管工の仕事が本業になりつつあるのだけれども。


というのも、敵の親玉が赤星さん片思いしていて(諦めたとか言ってたけど、どうだか)、尚且つ現在僕と交流を深めているからだと思う。


案外、悪の総帥は可愛かったりするから驚きだ。


しかし、そんな意外な一面が困りものでもある。




悪の総帥のくせに、美形で、一途で、優しくて、泣き虫で、ぼっちで。







そんなの、反則だ。


好きになってしまったっておかしくないじゃないか。












「その唐揚げ1つください」

「いいぞ、ほら」



いつもの居酒屋の個室。ぼんやりした灯りの下で僕は今日も今日とて無意味な逢瀬の真っ最中。


接点のなくなりそうだった思い人に、友達だと言われたら友達になるに決まっている。一縷の望みでも縋りたくて、僕は彼の友達になった。だから僕は今、敵である黒瀬さんとまったくもって個人的な時間を過ごしている。


恋の応援なんてもの、しなくてよくなったけれどずっとこのままぬるま湯みたいな友人ごっこを続けなければいけないのかな、なんて思うこともある。


ああ嫌な考え、と思ってそんな考えを払拭するように僕はわざとらしく明るい声で黒瀬さんに質問をふる。


「黒瀬さーん、友達、僕以外にできましたかー?」

「……いや、まだ常時募集中」

「さみしい奴め」

「……い、いいんだよ!だって緑川がいるし!!」

「………………そうですか」

「……なんだよ。なんか文句あんのかよ」

「―――いえ、なーんにもないですけど?」

「すげぇ怪しいんだが……」



ジト目で僕を睨む黒瀬さんに対して咳払いを1つ。黒瀬さんは特別変わらない態度のに、変に勘ぐってちょっと顔が火照った気がするからもうホント自分が嫌だ。

だって不意討ちだ。

僕がいればいいとか、誤解を生むセリフすぎるだろ。むかつく。ホントむかつく。この野郎。


そんな僕をよそにコトン、と黒瀬さんが焼酎の入ったコップをテーブルに置き、ため息をつく。



「結局さ、俺は悪の総帥で、その立場を隠さなきゃ一般人と交流なんかできねぇんだ」



そう言って、寂しそうにコップの中身を眺める黒瀬さんに、僕はちょっとだけ自分を重ねてしまう。


正義とか悪とか。

ずっと、ずーっと、僕らはそれにとらわれてる。



「……それ、わからなくもないです。僕ら正義の味方も、似たようなもんですから」

「正義の味方も?」

「見世物、みたいなもんです。動物園のパンダかって感じ。誰も本質なんか見ない」

「隠さねぇといけない付き合いっていうのは、どうにも辛いもんだよなぁ……」

「そうですね。結局一番自分を構成する事柄を秘密にしたままでいなきゃいけないですしね」



語りながら、僕は思う。

僕=正義の味方。正義の味方=僕。僕は正義の味方であり、僕を一言で説明するならハイカングリーンである。僕という存在は、僕が僕である限り正義の味方であるのだ。


まぁ、つまりは僕は正義の味方であり、『ただの僕』でいれる時はない。正義とか悪とか、縛られたくないし、縛られてるとは思ってないけどとらわれてはいると思う。つまりはニュアンスの違いなのだ。



正義とか、悪とか。




何度だって僕はその思考を繰り返す。正義とか悪とか、関係なしに僕は黒瀬さんが好きで、彼も僕を友人と言ってくれて。

でも僕らは男同士で。




だから、きっと。




「ずっと、一緒にはいられない………か」

「そうだな。秘密を抱えたまま、ずっと一緒にはいられないな」



恐らく、僕の思考なんて考えずに黒瀬さんは一般人との交友についてそう返してきたのだろう。

噛み合った会話が、なんだかおかしかった。




正義とか、悪、とか。男とか女とか。

そんなもの、なくなっちゃえば楽になれるのに。




そんな風に、思考の海に沈んでいた時だった。不意に、店内に騒がしく入店してきた客達がいた。


「いやぁ、いい店だな!さっすが青木!よく知ってるな!」

「まぁ、このくらい知ってて当然だからな」

「それにしても、緑川も来ればよかったのにぃ」

「……どうせ、俺達より援交のが大切なんだろ」

「ちょっと黄戸ー。まだ緑川がそんなことしてるって決まってないじゃん!」

「焦った顔でよく言うよ、変態カマ野郎が」

「……てめぇ、よくもカマ野郎って言ったなぁ!」

「おい!桃城、黄戸、やめろよな!こんなところで喧嘩なんて!」

「というか、桃城、変態には反論しないのか」




なんだかどこかで聞いた覚えのある名前と声なんだけど、僕の気のせいだよね?



「おい……緑川、この声…」

「いやいやいやいや。それはない。あの人達がここにきただなんてそんな。まさか。ないから。ありえないから。ね、黒瀬さんもそう思いますよね?」

「いや、でもこの声といい会話といい…」

「ねぇから。マジねぇから。ありえねぇから!」

「緑川、とりあえず落ち着けよ……」




そう言って僕を宥めようとしている黒瀬さんだが、僕は知っている。黒瀬さんも動揺しているのだ。僕と同じくらいには。その証拠に、表情はまともなくせに冷や汗をダラダラとかいている。さすがヘタレ。



「いいですか?絶対に、見つかったら厄介なことになります。だから、気配を殺すんです。そう、空気。僕らは空気です!」

「く、空気か……!」

「僕は空気になるのは慣れますが、悪の総帥の黒瀬さんにはちょっと難しいかもしれませんね。でも、難しくてもやらねばならないんですよ!さぁ、いざ空気に!」



そんな風にハイテンションで言えば、なんだか無性に楽しくなってきたから、人間の心理ってわからない。危機的状況に追い込まれても、そこに何かしら楽しさを見出だすんだから。

つまり、それだけ僕と黒瀬さんは追い込まれていて、理性とかそういうものがショートしていたのだ。



「おう!俺は空気…。そう、空気だ!」

「その調子です!いざ空気!」

「空気!空気!」

「エアーです!エアー!」



キャラ崩壊も甚だしい。物事に熱くなりにくい僕が、青春ものの映画の主役のように声を張っていた。





この店に、奴らがいるというのに。





「なにしてんの、緑川………」



爆笑している赤星さんと、冷たい目の青木さん、そして何より、絶句する黄戸くんと、どん引きしながら僕に声をかけてきやがった桃城さんの顔を、僕は一生忘れないだろう。




 

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