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一夜限りの魔法をかけて

この想いは、報われないと分かっているの。

それでも、それでも…

ねえ、黄瀬くん



私を見て…



ため息をつくと、白くなってすぐに消えた。

この真っ青な寒空の下、彼を待つ。

彼とは付き合って一年と半年になる黄瀬くん。

彼は海常のバスケ部に所属しているから、こうやって会えるのは珍しい。

「名前さん!!」

駆け寄ってくる彼の私服を見るのはいつ以来か。

コートにジーパンにショートブーツ。

頭には毛糸の帽子を乗っけて、変装のつもりか伊達の黒縁メガネ。

それだけなのに、この人はまるで王子様。

整った顔立ちは色んな人の目を引く。

「待ったっスか?」

「ううん、あたしも今来たとこ」

「そっか、よかった。で、どこ行くんスか?」

目をキラキラさせて言う彼。

「そんな楽しみだったの?」

思わず笑みを零して言うと、当たり前っスよ!と即答された。

「折角クリスマスイブだからね、着くまでお楽しみ」

えー、と不服そうにむくれる彼。

頭を撫でてあげたい衝動に駆られるけれど、届かないから我慢。

「じゃ、行こっか」

私が歩き出すと、それに続いて彼も歩き出した。



電車を二駅ほど乗り継いで来たのは、ちょっと有名な遊園地。

「わあっ」

目を輝かせる彼が眩しい。

「はい」

事前に買っておいた遊園地のフリーパスを彼に渡す。

「これ、お金いらないから」

「えっ、けど…」

戸惑う彼にフリーパスを押し付ける。

「いーの。あたしは大学生で君は高校生。」

「俺の方が稼ぎあるのに」

「こら、そこは言わないの。」

って言うと、彼は渋々ながらフリーパスを受け取ってくれた。

実際、このフリーパスを買うためにバイトはかなり頑張ったけど。

「じゃあ、どれから回る?」

にっこりと笑った。



ねえ、黄瀬くん。

楽しかったよ。

君は本当に私を幸せにしてくれた。

でもね、知ってるよ。

あたし、知ってる。


「そーいや、桃っちは元気っスか?」


貴方が好きなのは、あたしの妹なんだってことくらい。

私の髪は別に綺麗な桃色じゃない。

ただの黒髪。

顔だってそんな似てないし、彼女ほどナイスバディじゃない。

けれど、性格は似てる所もある。

「うん、元気みたいだよ。この前電話きた」

「そうっスか。久々に会いたいっスねぇ」

ほら、今だって何処か遠くを見てる。

だからね、黄瀬くん。

私、最後にするの。


今日で、君に会うのを…


でも…


ううんだからこそ、今日だけは…


君と、一緒にいたいの。



それが、自分から自分へのクリスマスプレゼント



遊園地で沢山遊んで、夕飯を近くのマジバですませ、そのまま近くにある私のアパートへ。

家からでも通えなくない距離の大学だったけど、どうしても一人暮らしをしたいとごねて、大学のそばのアパートを借りた。

「やっぱ、綺麗っスね。名前さんの部屋。」

「そうかな。」

普段から散らかってる訳じゃないが、昨日は念入りに掃除をした。

「おっ、月バス」

たまたま昨日の夜読んでいた月バスに彼が飛びつく。

その間に私は冷蔵庫からケーキを出した。

「はい、黄瀬くん。食べよ?」

昨日片付けをしてから作ったケーキ。

普段はあんまり甘いものを食べれないとこの前電話でぼやいていたから、作ったのだ。

クリスマスくらいなら、許されるだろうと思って…

料理は自分の得意分野だと自負している。

ちゃんと味見はした。

結構美味しかった。

「え、いいんスか!?」

「うん、クリスマスプレゼントその2」

わーいと言って飛びつく黄瀬くん。

二人分以上に作っていたケーキだったのに、すぐなくなった。

そして、全てのプレゼントが終わったということは…


「名前さん…」

彼がキスしてきた。

それが合図。

私と彼の、最後の夜が始まる。

ねえ、黄瀬くん。

私ね、もっと沢山の事を貴方としてみたかった。

できるなら、来年のクリスマスだって貴方と居たかったし、一年だけでも同じ大学に通いたかったし、ウェディングドレスはあなたの隣で着たかった。

だけど、それができないなら…

「黄瀬くんっ」


逞しい、彼の身体に手を回して抱きしめる。

ああ、神様お願いします。

彼が幸せになれるよう、明日この手は必ず離しますから…

この私に



一夜限りの魔法をかけて


シンデレラのより少しだけ長く、
幸せな時間をください。


「名前っ」

切なく私の名を呼ぶ彼の目に、私だけが映るような、幸せな時間を…







To be continue

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