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素直な君は俺のもの

彼はいつもかっこいい。
モデルだし、バスケ部のレギュラーだし、誰にでも優しいし。
不安にならないわけじゃないけど、私の不安をいち早く察知して安心させてくれる、そんな人。
そして、私のことをいつでも守ってくれる。
そんな
彼氏の名前は黄瀬涼太。

「あ、おはよ名前」

付き合う前にはついてたっちが取れて、もう数ヶ月。
本人曰く、本当に好きになったから名前で呼びたいのだという。

「お、おはよ」

軽く微笑まれただけでもドキドキする。
別に彼の顔を見て好きになった訳じゃないけど、彼の繕わない仕草や表情は本当に新鮮だ。

「久しぶりっスね、一緒に登校すんの」

そう言えば、付き合い始めたら私への敬意はなくなるの?と聞くと、それは敬語で表すからいいんス、と不思議な敬語を続けている。
私は敬語を使われるような人間じゃないのだけど…

歩き始めると、彼は必ず私の右側に立つ。
その時に左耳のピアスがキラリと光る。
その瞬間がとても好きであることは、私だけの秘密だ。

そうそう、ピアスには意味があると中学時代の緑色の友達に教えてもらったことがある。
昔、ピアスは当然だけど外国のもので、貴族の象徴でそもそも男性の装飾品であったらしい。
その頃、武器を右手に持つことから男性は必ず被守護者である女性の右側を歩いていたから密着するのは男性は左側、女性は右側。
そういうわけから、特に愛する女性を“己の勇気と誇りを掛けて守る”と言う誓いが左側のピアスには込められていて、その対になった右側のピアスを、女性に贈る事でその意志と想いを告げるということらしい。
因みに男性が右側に、女性が左側につけた場合、男女の守護者、被守護者の関係はなくなり自分が同性愛主義者であるという性的立場をアピールするらしい。


この話を知ってか知らずか、彼は左耳にしかピアスをつけておらず、また私と歩くときは必ず右側を歩く。
ピアスが左耳についていて正直安心した。

この話を聞いた時から、いつか彼とお揃いでなくてもいいから右耳にピアスを開けたいとずっと思っていた。

そんな矢先、先日目に入ったピアッサー。
ファーストピアスの色が黄色だったので思わず買ってしまった。
まだあける心の準備はできていないし、彼にも言っていないのだけど。

「名前、どうしたんスか?」

突然声をかけられ、ふぇっと素っ頓狂な声が口から飛び出た。
ああもう、どうしよう。

「ふぇって、本当、小動物みたいで可愛いっスね、名前は」

私の頭を優しく撫でてくれる。
確かに、私の身長は日本人女性の平均にも達しておらず、どちらかと言えばチビな部類。
一応スカートだって上げているし、ネクタイも緩めてはいるけれど私、黄瀬くんの彼女に見られているのだろうか?
そういう小さな不安は、何故か心の隙間に入り込んでくる。
本当、そう。
何度も彼が取り払ってくれているのに。
けれど不安なものは不安なのだ。
私、黄瀬くんの彼女でいいのだろうか。
妹のような友達の間違いではないだろうか。

「大丈夫っス」

頭を撫でながら黄瀬くんが不意に言うから、またびっくりして、ふえぇ、と声が出てしまった。

「名前ってば、考えてること半分は口に出てるっスよ」

彼は苦笑して、それからやたら綺麗な顔が近づいてきた。
かと思えばちゅっと、可愛らしいリップ音。
キスされたと気付くのにそう時間はかからなかった。
え、ええ、と思っている間に顔は離れていった。

「そういう素直すぎるとことか、どんな子にでも優しいとことか、ふわふわしてて撫でたくなるようなとことか、全部好きっス」

ああ、やっぱり、こんな最上級の笑顔でこんなこと言われちゃあ、さっきの不安なんて一瞬で吹っ飛んでしまう。
私の右側で微笑む彼を見たら、なんだか本当に守られているみたいでとても安心した。
だから、ね、黄瀬くん。


「私、今日帰ったらファーストピアスあける」

そう言って黄色いファーストピアス入りのピアッサーを買ったことを告げれば、とても喜んでくれた。




素直な君は俺のもの



俺も知ってるんスよ、片耳のピアスの意味。
君は俺だけに守られていて。

「じゃあ、ファーストピアスがとれたら俺の反対側のピアス、あげるっスね」

そんな想いを込めて言うと、彼女は嬉しそうにうんっと頷いてくれた。
それがまた可愛くてぎゅうと抱きしめてしまったのを笠松先輩に見られてシバかれたのはまた別の話。



企画「黄昏」様
第35Q「単語の海に溺れよう」
ピアス担当。

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