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君は俺だけに食べられて?

ちゅ、ちゅ、と優しい喰むようなキスが繰り返され、思考が溶ける。
さすが、沢山遊んでいただけあってキスが上手い。
もう、彼との行為は何回目かも分からないのに、まだこの甘いキスに思考を持って行かれてしまう。
それはなんとなく悔しい気もするけれど、どうでもいいやと彼女は考えることを放棄した。

「名前、キス好きッスよね」

満足げな目で私を見つめる熱っぽい金の瞳。
左耳にはキラリとお揃いのピアスが光る。
それがまた色っぽい。
彼の表情は艶っぽささえ漂わせるのに、その中に潜む満足げな色さえ見抜けてしまうのは、名前と彼、黄瀬涼太がそれなりに長い付き合いだから。

それゆえ、

「なんかムカつく」

こんな言葉さえぽろっとこぼれてしまう。
戻ってきた思考で、先ほど言おうとしていたことを思い返す。

ああ、そうだ。

普段はわんこみたいな彼でも一応というか、かなり有名なモデルであるわけで、それを自覚した行動をしてほしいと頼みたかったのだ。
確かに彼と彼女のことは週刊誌にとりあげられるなど、紆余曲折あって公となってしまったが、それでも彼の人気が落ちることはなく、寧ろ上がってしまった。

問題はここからだ。

普段は犬のように彼女にじゃれついて、それこそお手と言えば従うであろうほど私に従順な彼なのだが、どうしても聞かないことが二つある。
そのうちの一つが、人前で抱きついたりキスをしないこと。
ただでさえ、長身、金髪、イケメンの彼は目立つのに、街中で誰かに抱きつこうものなら目立ってしょうがない。
だからやめてほしいと何度も言い聞かせているのだが、一向にやめる気配はないのだ。

「ね、涼太」

「なんスか?」

「ん、っ、待って、話…をっ、」

色んなところに口付けながら徐々に彼女の感じるところを責め始めるから、また思考はドロドロに溶けて、何も分からなくなる。
ちゅ、ちゅ、と聞こえるリップ音はわざとなのだろうか?
その音がとても艶やかで、恥ずかしくて、気持ち良くて、彼女は彼に向かって手を伸ばした。
すると、彼は美しく口の端を持ち上げて彼女の鎖骨にキスを一つしてから、ジュッと音を立てて吸い上げた。

「んっ」

柔い力ではあるが喰まれ、鈍い痛みが生まれる。
それと同時に彼女の白い肌に赤い花びらが散る。
それを見た彼は満足げに笑う。
まるで、欲しかったおもちゃを手に入れた子供のように。

「ちょっと、鎖骨はダメっていつも言ってるじゃない」

彼が言うことを聞かなくなる瞬間その二がこれだ。
今は夏場でかなり暑いから、世間の女子同様彼女も胸元の大きく開いた服を着ることだってあるし、ファッションとして楽しみたい。
ところが、こんな時だけ何故か言うことを聞かない黄色の大型犬は毎回毎回鎖骨のあたりにキスをして、そのあとキスマークをつけるのだ。

「だって、名前の鎖骨エロいんスよ。それになんか食べてるみたいだし、名前のこと」

その言葉と共に彼女の唇は塞がれ、優しく、荒々しく、舌が絡み合う。
そうしてまた結局、彼女は彼のことを咎められずにいるのだ。



君は俺だけに食べられて?



他の男にそんな胸元の開いた服なんて見せないで

さあ、君のすべてをいただこうか。

黄色い瞳がキラリと光った。
恋人たちの夜は、まだ長い。

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企画「kiss to…」様
第二回「手首/鎖骨×SF」

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