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その一言でわたしの一日がどんなに素敵なものになるのか知らないくせに

ソファの上でクッションを抱え、時計を見て、一つため息を付いた。

確かに飲み会だと言って出て行ったけれど、こんなに遅くなるとは聞いていない。
まあ、どうなっているかなど大体予想できるからこんなに不機嫌なのだけど…

私の彼氏は今をときめくモデルの黄瀬涼太。
なんやかんや中学時代から付き合っていて、いやその前に小学校から友達としての付き合いもあって、親同士の仲も大変よろしい。
そのお陰か、高校を卒業した途端「同棲しちゃいなよ、家賃半額でありがたいから」という双方の母親の言葉で、大学一年生にして私たちは同棲を始めた。「もう何があっても怒ったりしないよ、心おきなく毎日を楽しんで」というなんとも心の広い意味深な両親のお言葉により、彼氏様はやりたい放題やっている。
なのに、というかそれでストレスが発散されているのか、彼は毎日元気いっぱいだ。

一方私は体力的に辛い。
その上、大学では涼太と付き合っているからか女子からの視線が痛い。
中学、高校と慣れたから幾分マシだが、最近は地味に嫌がらせをされるようになってちょっとしんどい。
けれど、まあ

「ただいまー」

ガチャリと音がして、扉が開く。

「おかえり」

ちょっと拗ねた声で返すと、「連絡できなくてごめんっス」と私の頭を撫でながら言う。
いつもならそれで許してやるが、今日はなんだか甘えたな気分なので、絶対可愛くないことを覚悟して頬を膨らませた。

「どーしたんス…へっ?」

私の顔を覗き込んだ涼太が素っ頓狂な声を出す。
人の顔見てそんな声出すとか…
私のむくれ顏はそんなに変か。
恥ずかしくなって、抱えていたクッションに顔を埋めた。

「ちょっ、名前っち!!」

「なによ」

「もう一回!!」

そんなに面白かったか、この野郎。

「やだ」

「えー、なんでっスか。めちゃくちゃ可愛かったのに」

そう言ってやったら笑い者にする気か、こいつ。

「そーやって言えばもう一回やってくれると思ってるでしょ?」

「えっ、いや、そーじゃなくて…」

「そんなに面白かった?」

「いや、本当に可愛いかったんスよ」

信じて下さいっスーとワタワタしている涼太。
さっきまであんなに拗ねていたのが嘘みたいに心が澄んでいく。

「本当?」

「ほんと」

「でもやんなーい」

そういいながら、彼氏様に飛びついてやるとおっと、と言いながらもちゃんと受け止めてくれる。
しなやかな筋肉のついた腕で私に優しい抱擁をくれた。

「涼太」

「なんスか?」

「おかえり」

「ただいま」

つか、さっきも言ったじゃないスかと涼太が頭上で笑う。
でも、いいのだ。
私はこの言葉がすごく好きなのだから…
世界で一番、いや二番目に好きな言葉はおかえりだと思う。
けれど、やっぱり一番は…

「涼太」

彼のTシャツに顔を埋めた。
ほんのりと、優しい香水の香り。

「愛してるよ」

呟くと、少ししてから

「俺も愛してるっス」

と嬉しそうな返事が帰ってきて、窒息しそうなほど抱きしめられた。

一旦身体を離すと、嬉しそうな、幸せそうな笑顔が其処にあった。

ああ、もう。




その一言でわたしの一日がどんなに素敵なものになるのか知らないくせに



彼は素敵な笑顔までセットでプレゼントしてくれるから、私はどんなことがあっても、明日も頑張ろうと思えるのだ。

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