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月の恋しいかぐや姫

君を守るために死ねるならの続きらしきもの



目を開けると身体中が痛みで軋んだ。
ここ、どこだろう…

ぼんやりと記憶を手繰り寄せていると

「名前っ」

切羽詰まった声で名前を呼ばれて、目をそちらに向ければ紫紺の瞳と漆黒の髪が目に入った。
ああ、ヤバイと思った途端

「この馬鹿野郎がッ」

雷が落っこちた。
ここで正座させられないだけ、怪我していて良かったと思う。

「勝手にウロチョロすんじゃねぇっ!!」

「えー」

唇を尖らせてみる。
これは沖田さんの真似だ。
私じゃあ似てないだろうけれど…

「たまたま斉藤が気付いて羅刹隊が突入したから良かったものの、もし誰も気付かなかったら…」

そこまで言いかけて、土方さんが口を閉じた。
やっぱり、この人は優しい人だ。
鬼だ、なんだとみんな言っているけれどそんなことはない。

「わたし、は…死な、ない」

死にたいと思ったことはない。
だって新選組は私の居場所だったから…
帰りたいといつも願ってた。
今回ばかりは帰れないかも、と思ったけれど…
でも結局同じこと…

「死ね、ない…」

そう、こんな怪我で死ねるほど私の身体は甘くなかった。
あの時、確かに誰かの刃が私を貫いた。
それも複数。
普通ならまず間違いなく即死のはず。

けれど、私は死ななかった。
意識が遠のきながらも剣を振るった。
白銀だった髪はいつの間にか、茶色へ戻っていたけれど…
ついに限界が来て、愛刀を渾身の力で投げた。
そのまま、崩れ落ちる時
もう一度だけ、愛しい彼の叫び声を聞いた気がして幸せな気持ちのまま意識を失った。
だけど、そうだった。
私は、化け物だったのだ。
そう簡単には死ねない。

なのにこの人は私を助けるために羅刹隊に突入命令を出したんだ。

「わたし、せっ…ぷく、です、か?」

例え腹を切ったとて私は死ねない。
心臓を貫かれない限り…
死ぬなら腹を切った後に誰かに心臓を貫いて貰わねばならない。
それなら、立会人はもう決まりだった。

「普通なら、な」

土方さんはため息をつく。

「さっき山崎から報告があった。西の方に布陣していたはずの敵の羅刹隊、それからこっちの羅刹隊が突っ込んだ敵の部隊が壊滅した、と…」

お前だろう、と言うように苦笑する私の上司は本当頭の回転が早い。
聡いこの人はもしかしたら私の心の中も全て見通してしまっているのではないか…
ため息すらでてくるほど、この人は切れ者だ。

「その功績に免じて、今回は許してやる。但し、報酬はなしだ。いいな」

優しく笑って頭を撫でる土方さんは鬼なのか、仏なのか、最早判別がつかなかった。
なんて優しくて残酷な人なのだろう。
けれどやはり、私の上司がこの人で良かったと思うのだ。

「とりあえず、もう寝とけ」

優しい声音で安心した私の意識はまたすぅっと落ちて行った。



土方が部屋を出ると、赤髪の男が片膝をたてて座っていた。

「目、覚めたがまた寝ちまったよ」

土方が声をかけると男はそうか、と呻くように言った。
その目に浮かぶのは自責と後悔と心配と…
土方は一つため息を零した。
こいつは確かに女の扱いに慣れていた。
途中で女遊びを控え始めた土方に対し、原田は永倉や平助とも島原へ行っていたし、抱いてくれと遊女に頼まれたことすらあるらしい。
屯所でも男達の中で暮らす千鶴をとても気にかけていた。
しかし、彼女が女であることはそんな原田でも見抜けなかった。
彼女は芹沢一派の粛清完了後に現れ、監察方として土方の右腕となっていた時期が長かったため、幹部とさえ顔を合わせる機会は少なかった。
また千鶴とは違い背も平助と同じくらいあり、土方が監察として重宝するほどの変装術があった。
故にいくら原田と言えど見抜けなくてもしょうがないと土方は思う。
仲の良い兄弟のようであった。
最もその頃から健気な彼女は彼に思いを寄せていたのだろうが…

だが、深夜に彼女が湯浴みをしていたところを原田が見てしまうという事件以来、以前のように二人が酒を飲むという光景は見なくなった。
それでも以前通り、いやそれ以上に原田は名前のことを気にかけていたと思う。
それを彼女の前で出さなかっただけで…

そもそも名前は千鶴とは違い守られることを嫌がり、誰かを守りたい、そういう女だった。
しかし女を守ることが信条の原田だから、自分が近づくことはできないと思ったのだろう。

原田が離れていくにつれ、名前の我が身を犠牲にするような戦い方が増えた。
大方、原田が千鶴に片想いでもしていると勘違えたのだと土方は予測する。
邪魔な自分はさっさと消えた方がいい、そんなところか…
それが土方にとっても、原田にとっても大きな損失以外何物でもないというのに。

「なあ、原田」

原田は俯いたままだったが、土方の声が優しかった。

「俺はあいつを失いたくねぇ。お前は違うのか?」

原田は美しい赤が薄紅になるほど唇を噛み締めて、やがて…

「惚れた女を死なせたいわけねえよ」

と答えた。
なら、答えは簡単じゃないか。
土方は笑う。

「そのまま、あいつに言ってやれよ」

優しく諭して自室へ歩いて行った。

本当は自分より、原田の方が彼女を心配しているのだ。
瀕死の彼女を助け出したのも、この数日殆ど彼女に付き添っていたのも彼なのだから…

早く二人が結ばれるよう、土方は一人月を見ながら願った。






月の恋しいかぐや姫



本当は、早くそこに帰りたいと願っている。
そして、月もまた、彼女を待っている。

ならばさしずめ自分はどうすることもできなかった、ただかぐやに恋した帝だろうか。
名前を撫でた右手を、土方はきつく握りしめていた。

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