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あなたが、私の生を望むなら

次に目が覚めると、真っ白な光が名前の視界に差し込んだ。
それが眩しくて、思わず目を細める。
どうやら目覚めたのは真昼間だったようで、開けられた障子から覗く太陽は既に高いところへ登っていた。
今、いつなのだろう?
確か、前目が覚めた時は夜で、土方さんが来てくれて、案の定雷が落とされて…

だが、確認をしようにもあたりに人の気配はなかった。

気配を探るついでに耳もすませる。
砲撃の音はしない。
少なくとも今は睨み合いが続いているようだ。

「いかな、くちゃ…」

身体を起こすとまだ傷が痛んだ。
もう治ってしまっている傷もあるが、塞がっていない傷もある。
鬼は羅刹のように一瞬で傷が治るわけではない。
勿論普通の人間よりは圧倒的に早いが本調子になるためにはあと二日はかかるだろう。
くっと歯を食いしばって、名前は身体を起こしそばにあった自分の服を着る。
だが、痛む身体はそんな普通の動きですら許してはくれないようで、いつもの倍は時間がかかってしまった。
唯一の救いは、短くなった髪の毛だ。



ああ、沖田さん、もっともどかしい想いをしていたんだ…

胸が締め付けられるのを名前は感じた。

腰に下げた刀が重い。
いつもは片手で振り回している刀なのに、自分の相棒であるのに、今は傷を痛みつけるだけの物でしかなかった。
しかし、それでも…


「いか、なくちゃ…」

もう一度、乾いた口から零れ落ちた。
だって、まだ近藤さんと土方さんにはこれっぽっちも恩を返し切れていない。
いつも気にかけてくれた斎藤さんや山崎さん、笑わせてくれた永倉さん、藤堂さん、帰ると一番最初に駆け寄って来てくれた千鶴さん、見守ってくれた井上さんや、山南さん。
監察の任務で抜けることも多かったけれど、それでも自分の上司で尊敬していた沖田さん。

そして…


大好きなあの人のために
まだ自分は戦わねばならない。

命を賭してでも、大切な物を守るために。


痛みを振り切るように障子を音を立てて開いた。

そのまま、僅かな時間身を寄せただけの本陣を歩きだす。
みんな、無事なのか?
怪我をしてないだろうか?
まさか、死んだりしていないだろうか?

一足、二足踏み出すたびに目眩がして息が苦しくなる。
もしかしたら傷口が開いたかもしれなかった。
それでも、まあいいや。
とにかく、急がなくては。
戦いの場に、戻らないと…

大切な誰かが死んでしまう前に。



「おいっ!!」

ぐいっと肩を掴まれ、名前の全身に痛みが走った。
呻きを堪え、彼女が振り向くとそこには最愛の男が立っていた。
自分に向けられる目は、敵に向けるそれと同じ目で、そんなに嫌われていたか、と名前は自嘲の笑みを零した。

「原田さん、丁度良かった、土方さんは…」

「ふざけんなっ!!見え見えの痩せ我慢しやがって」

声を荒げる男に、彼女は笑ってそんなことないと返す。

「それに悠長に寝ている場合じゃあありませんよ。今は一人でも戦力が欲しい時ですし。傷はもう殆ど治り…っ!」

掴まれていた肩を今度は強く引かれ、痛みに呻く名前の落ちた先は、愛しい男の腕の中だった。

「もう、やめてくれよ…」

先程とは打って変わって、弱々しい声が名前の鼓膜を揺らす。
だが、突然の事態に名前の頭はついていかない。

ぎゅっ、と男の腕に力が込められる。

「もう、あんな想いはまっぴらだ…惚れた女が、血だらけで刀握りしめて倒れてるなんて、あんな、青白いお前の顔見るなんて…」

耐えられねぇんだよ、と普段の彼からは想像できないほど弱々しく、たどたどしく吐き出された言葉が名前の頭の中で反芻される。
違う、だって、彼が惚れているのは彼女だから…
自分のことなんて嫌っているのだから…

「うそっ、だって、だって…」

夢だと思ったのだ。
意識が途切れる前に聞こえた彼の声は、都合の良い幻聴だと思ったのだ。

だって、彼は自分のことを嫌いになったのだから…
自分とはかけ離れた少女に恋をしていたのだから…

なのに、何故彼は、自分を抱きしめているのだろう?


「冷たくして、悪かった。」


一つ、二つ…
原田の着物に涙が吸い込まれていく。



「生きて、くれ…。頼むから、死のうとするんじゃ、ねえっ」


彼の肩が震えている。

まだ、理解できないことが沢山ある。
だけど、その前に、これだけは、伝えなければならない。


「すき…あなたがっ、すきっ!!」

痛む腕を彼女は震える背中に回した。







あなたが、私の生を望むなら

生きてみようと思う。
あなたと生きる、残酷でありながら美しく優しいこの世界を…















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