一緒にいたいよ




朝起きてすぐ洗面所へと向かう。
鏡を見て目の辺りを見てみると見事に貼れていた。

昨日、いっぱい泣いたからなぁ…。
はあ、と溜息をして顔を洗った。
まあ多分あんま人から見てわかんないと思うからいっか。

私は部屋へと戻り、服を着替える。
今日はこっちの世界に来た時に着ていた服を着てみた。
トリップしてから一回も着てないことに気づき気分転換に着てみた。

どうせ今日は塾も休みらしいからいいや、と思いつつ。
着てみて改めて思ったけど、やっぱりこっちの服の方が落ち着く。
動きやすいし、着慣れているからだろうか。

少しして、廊下からドタバタと走ってくる足音が聞こえてきた。



「菜緒!!」


「いるか!?」


「邪魔するぞ!!」



バンッと音をたてながら扉を開いた銀時君。
その後ろには、塾に遊びに来た晋助君と小太郎君。
急に私の部屋に入ってきた3人は息を切らせている。
どうして急いで来たかわからないが、心なしか目が輝いている。

しかし、一瞬私の着ている服に目を見開いた。
だけど今はそんなことを気にしているわけにもいかないよいうで、またもや目を輝かせる。


「菜緒、昨日の夜に松陽先生と打ち合ったって本当か!?」


「お前剣出来んのか!?」


「強いのか!?」



……そういうことか。
ということは松陽先生がこの子達に言ったのだろう。

というか、この3人は私にそんなことを聞いて何をしないのだ。
まさかの一緒に打ち合って欲しいとか言うのだろうか。

いや、無理だ。
私はたまたまやっただけだし、初めてだったし。
何年も習ってるこの子達とやったら負けるに決まってるじゃないか。



「やったけど……。だからって、一緒にとかはやらな……」


「「「一緒にやろう(ぜ/ぞ)!!!」」」


「わっ」



私の腕を無理やり引っ張って道場へと向かう3人。
どうやら拒否権はないらしい。だから、私はやりたくないんだって。



「おりゃあぁあああ!!」


「っ!!!」


ガンッ



竹刀がぶつかり合う。今は晋助君とやっている。
さっきは、小太郎君とやっていた。
来てからすぐには銀時君とやった。

勿論のこと一回目は2人に負けたが、二回目は2人に勝てた。
そして晋助君とは一回目は勿論私が負けた。
さっき銀時君と戦って体力消耗しているのに最初から勝てるわけがない。
二回目は何とか力を振り絞り、晋助君の胴に竹刀を入れて勝った。



「はっ……菜緒剣やれんじゃね?俺よりはまだまだだけどな」


「えー…真剣だけは本当に勘弁だわ。私もうこんな戦いしないよ?今回だけだよ!?」


「「「また今度やろうな!!」」」


「うん、絶対にしない」



人の話しなんて全く聞かない3人達。
そんな3人を呆れた顔で見ていたら松陽先生が道場に入ってきた。



「皆さん、飲み物を持ってきましたよ」



松陽先生の手には今いる人数の飲み物があった。
私達は先生にお礼を言い、飲み物を貰った。



「皆さん、菜緒さん強かったでしょう?」


「え、ちょっ、松陽先生!?」


「うん、普通だった」


「まぁまぁじゃね?」


「良かったと思うぞ」



それはそれで何だか酷い。
でもまぁ、私は平凡のままで生きていたいからいいだろう。
もう絶対に非平凡なことはやらないと、私はそう誓った。



「ふふ、でも初めての割には凄かったと思いますよ」


「あ、ありがとうございます」



改めてお礼を言う私。
すると私の体がいきなり光だした。



「え…」


「「菜緒!!?」」

「菜緒殿!?」


「菜緒さん!」



急に光だし、私の体は透けだした。
いきなりのことだからみんな私の体を掴んで私に向かって叫んでいる。
いつも大人しい松陽先生もテンパっていて私の名前を呼んでいる。



「菜緒!!これ、どういうことだよ!?」


「菜緒、教えろよ!!」


「菜緒殿は、どうなってしまうのだ!!」



少し涙目で私を見つめる。
どういう状況かわかっての涙目なのだろうか。
否、きっと焦っていて分からず混乱しての涙であろう。
私は3人の頭を撫でる。
その透ける私の手は今にも消えてしまいそうで、幽霊みたいだった。



「………初めて会った時に私、言ったでしょ?違う世界から来たって」


「「「………」」」


「あれ、本当なんだ。私、違う世界から来てね、君達と出会ったの。…まぁ、それのことは松陽先生に聞いてね」


「「「菜緒(殿)!!!」」」



とうとう涙を流し始めた3人。松陽先生も悲しみに満ち溢れた顔をしている。
止めないで、泣かないで。
私はあなた達のそんな顔を見たいんじゃない。
もっと笑って欲しいんだ。
だから、もっともっと笑って、笑顔を見せてよ。



「私はね…、もう消えてしまうんだ。違う所に行ってしまう、んだ。だから、もう、会えないかも……」



きっとここから消えたら私は前の世界に戻っている可能性が高い。

いや、戻ってるに決まっている。
だって、何かの役目が果たされて私はもう消えてしまうのでしょ?
じゃ、もう本当に会えないのかな……、この先も。

そう思うと私もだんだんと涙が溢れ出てくる。
それと同じように私の体も全体的に消えかかってきた。



「…みんなと離れたくないよ……」



だって、私は少ない時間でも殆どみんなと一緒にいたんだ。
銀時君や晋助君や小太郎君。
松陽先生と塾の子供達。

お世話にもなったし、何より一番楽しい時間だった。
悩む日だって沢山あったよ。
でもみんながいたから私はここで生きていけた。



「みんな……。私、みんなと会えて良かった。とっても楽しかったよ。だから、また会う時には話しかけてね?」



もう無理だと思うけど。



「嫌だ!!行くなよ、菜緒!!!またケーキ作るって言ったじゃねーか!!」



けど、



「俺らは菜緒がいなくちゃ駄目なんだよ!!」



それでも、



「菜緒殿がいなくなったら、俺らはどうすればよいのだ!!」



また会えるようにと、何度でも何千回でも願うよ。



泣き叫ぶみんなは私に行かないでくれと言いながら必死に透けていく私を抱き締める。
すると松陽先生が口を開いた。



「菜緒さん……。私はあなたと出会えて良かったです。あなたの笑顔や優しさにみんな救われました。だから、せめて前の世界に戻ったとしても私達のことを忘れないでください…。私はいつまでも菜緒さんのことを思っていますから」



ニコッと笑ってみせる松陽先生。
私もそれを見習うように笑ってみせた。



「…っありがとうございます。先生、無理しないでください…。私、力になれなかった、助けれなかった。けど…遠くから応援してます、から…」


「…!ありがとうございます」


「…これからもずっと、ずっと……みんなのことを思ってるよ。絶対、一時も忘れないから…!」


そして私はこの言葉だけを言い捨て消え去った。
最後に聞こえたのはみんなの泣き叫ぶ声だけだった。




((ほら、私の思っていた通りにわたしはこの世界から消えてしまったよ))

((だけど、また会えるといいね……))



―子攘夷篇end―



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