知っている
「菜緒!!早く来い!!」
「早く行こうぜ!!」
「菜緒殿、早く来ぬか!!」
「はいはい」
今日は3人と町に出る。
私はここに来てから寺子屋以外には行ったことはあるが、町…というか、村は初めてだ。
だから少し楽しみにしている。
松陽先生に「これで欲しい物を買ってきなさい」と言われ、お金を渡された。
すぐに断ったが、無理やり手に持たされたのでありがたくもらうことにした。
「ほら、ここが俺らがよく行っている駄菓子屋!」
銀時君が駄菓子屋に指を差しながら言う。
すると、おばあさんが出て来た。
「あら、また来てくれたんだね僕達。……おや?今日は保護者連れかぃ?また若くて可愛い親だこと」
「いや、違うぞ。菜緒殿は俺らの先生なんだ」
「ほぉ、そうだったの。いや〜…若いねぇ。さ、みんな中にお入り。今日はいつも来てくれる代わりに安くしてあげるよ」
みんな、やった!!と喜びながら中へと入る。
私もその子達の後に遅れぬよう入った。
「ありがとね、またおいで」
優しい笑みのまま手を振り、見送ってくれるおばあさんに私達も笑顔で軽く手を振った。
お菓子は結構な種類があった。
綿菓子やチョコレート。
そしてスナック菓子もあった。
まぁ、他にもまだまだあったが。
私達は1人1種類、1個ずつかった。
私は綿菓子。
銀時君はチョコレート、晋助君はガム。
そして小太郎君はねりアメ。
この世界にも色んな物があるんだな、と改めて実感した。
けど矢張りアメ玉だけはなかった。
本当はアメ玉が食べたかったけど……。
やっぱり昔と今は違うんだな。
今私達はお菓子を食べながら花畑にいる。
先に食べ終わった小太郎君は、私達から少し離れて花をいじって何かを作っている。
銀時君と晋助君は私の膝の上でムグムグとお菓子を食べている。
本当に可愛い。
「寺子屋の外にはこんなにも良い所があるんだね」
それは、この村や花畑のこと。
戦争をしているにも関わらず、ここの村は自然が豊かで緑だらけ。
「当たり前だぜ。ここは一番良い所だからな」
「へ〜」
軽く返事をして空を見上げる。
空はもう夕方だった。
オレンジ色の太陽が辺りを照らし、オレンジ色一色に染めている。
下を向いて2人の様子を見た。
相変わらず仲が悪い2人は何故か睨み合っている。
すると頭に違和感を感じた。
上に顔を見上げてみると、小太郎君が私の頭に花で作った冠を乗せていた。
1人で離れて花をいじっていたのはこの冠を作るためだったのだろうか。
とても丁寧に作ってある。
結構上手いな。
「菜緒殿。これ、作ったから、あ、あああげるぞ」
照れてるのか、言葉を噛みながら言う小太郎君。
私はそんな小太郎君に微笑みながら話す。
「ありがとう。大事にするよ」
私は頭に花の冠を載せながら、膝の上に乗っていた銀時君と晋助君を退かし立ち上がる。
「じゃ、帰ろっか」
同時にみんなも立ち上がる。
そして帰ろうとした途端、
「菜緒先生ー!!」
声が聞こえた方に振り返る。
すると、そこには寺子屋の子供達と松陽先生がいた。
「「「先生!!」」」
銀時君と晋助君と小太郎君は叫び出した。
松陽先生は3人と私を優しい笑みで見下ろした。
「こんな所にいたんですか。子供達と散歩ついでに探してたんですよ」
「あっ、すみません」
「ふふ、そんな謝らないでください。3人も楽しかったでしょうし。…それじゃ、帰りましょうか」
松陽先生に続き、子供達も銀時達も歩いていく。
小太郎君と晋助君が追いかけっこしながら走っていく。
そして銀時君は松陽先生に手を差し伸べられている。
周りの子達も1人1人松陽先生についていっている。
あ……、私はこの“場面”を知っている。
何だか胸騒ぎがする。嫌な予感しかしない。
まだ大丈夫だと思う……。
けど、もう少ししたら私はここから消えるように感じる。
気のせいだ。絶対に、気のせいだ。信じたくない。
誰か、嘘だよって言って…。
((このまま…、このままみんなとずっと一緒にいさせて…))
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