目の前の現実




ぎゅっと目を瞑って夢が覚めますように、と願った。
けど目を開けてもやっぱり中々夢から覚めず、景色は変わらず、少しだけ日が暮れただけのように見えた。
そのちょっとした変わりようだけでも夢でもない、と馬鹿にされているようで何だけ気分が悪くなった。


「お前、本当に大丈夫なんかよ。さっきより顔色悪くなってるし」


三人の様子が最初見た時より焦って見える。
子供の前で情けない…と思ったけどそれはそれ、これはこれだ。
だって今の状況を考えると落ち着く方が有り得ないだろう。
目が覚めると違う場所?知らない場所?
それも時代を、次元を超えて一方的に知っている人達の所?
どんな漫画だ。
生憎私は漫画の主人公でもなければ、黒幕的ポジションでも、主人公の友人とかでもない。
ただの一般社会人にしかすぎない。
だから、今の状況を納得するわけにはいかない。


「本当に、本当にごめんなさい。私は全然大丈夫だから」


そう言って見せたが顔はあまり上手く笑えていない。
目の前に居る人達は夢の中の人物。
だから、何も話しかけてこないでほしい。
何もしないでほしい。
じゃないと、頭がパンクして何が何だかわからなくなる。


「お前、名前は?」


急に話しかけてきた銀時君。
訊かないでよ、と言いたかったが流石に子供にそんなことを言える勇気はなく、春原菜緒と名乗ってしまった。
それで雰囲気的に「君達は?」とも訊いてしまった。
それが一番いけないことだってわかっていたはずなのに。
あぁ、自分は馬鹿だ。
本当に大馬鹿者だ。
零れそうになる涙を抑えて、三人の言葉に静かに耳を傾けた。


「俺は坂田銀時っていうの。んで、ヅラ野郎がヅラ小太郎d「ヅラじゃない、桂だ!!」…んで目つき悪ィのがチビ杉チビ助」

「俺はヅラ小太郎じゃなく、桂小太郎だ。あいつの言うことは聞かん方がいいぞ。よろしくな」

「死んだ目してるてめーに言われたかねーよ。つかチビじゃねぇ。まだ成長期じゃないだけだ、死ね。…んで、俺は高杉晋助だ」


そっか、とだけ言って笑顔を向ける。
醜い醜い私の笑顔。
三人の言葉を聞いて何となく終わったな、って思った。
全てが夢ではないとはっきりと否定されたみたいで、心が痛んだ。


「菜緒殿、さっきから気になっていたのだが……っ!?」


小太郎君が言葉に詰まらせた。
その理由は勿論私にある。
目から止まることがないそれは雨のように地面とぽつぽつと頬を伝って落ちていく。


「菜緒…!?」

「お前…!」


ひっくと声を鳴らしながら足を疼くめて、流れてくるそれを手で何度も何度も拭う。
情けない、情けない。
自分がこんなにも弱いだなんて、わかっていた、わかっていたけど…!
何で自分がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。
夢だって、信じたいのに。
夢なはずなのに。
夢ってわかっているはずなのに。
何で、なんで、なんで涙がこんなにも零れるのだろう。

違う、現実なんかじゃない。
だって、これは夢で、有り得ないことで、非現実なこと。
私なんかが出来ていい体験じゃない。
お願いだから、涙止まってよ…!


「大丈夫か…?」


心配そう覗いてくるその顔にもいらっとする。
子供相手に失礼かもしれないが、今は本当に腹が立つ。
人の気もしらないで。
同情なんて、いくら人生経験が少ない子供からだってもらいたくない。
こんな情けない自分を見てほしくない。


「っ、ひっく」


何で私はこんな世界に来たんだろう。
私はこんな世界願ってもいない。
寧ろこんな世界に来るのなら今すぐにでも元の居た世界に戻りたい。
友人が、親が、知人が沢山居る世界に戻りたい。

怖いんだ。
仲が良い人達と全員縁が切れるのは。
転生とかならまだ良かったかもしれないけど、これは人生のやり直しとかでもない。

願っても願っても私の願いは蹴落とされる。
涙は止まらない。
そんな自分に嫌気が指しながらも涙を一生懸命拭う。


「…家はどこにあるんだ?」

「そ、そうだな。もう暗いし送ってくぜ」

「う、む。良い案だな」


……何で?
何でこんな私に手何か差し伸べてくれるの?
ただの同情でしょ?
そんなものいらないよ。
いらないから、お願いだから元の世界に帰してよ。


「菜緒、大丈夫だ。今家に連れてってやるからよ」


無理だよ。
だって私の家ここの世界にないもん。
あるはずない。


「……いよ」

「?」

「私の家は、ない。ここには…ない、よ」


そう言うとそっか、とだけ言って申し訳なさそうに下に向いた。
…此処に居ても私はどうしようもない。
気づかれないようにはぁ、と溜息を吐いて、やっと乾いた涙をもう一回拭って立ち上がった。


「ごめんね、迷惑かけて。私、もう帰るからいいよ。ありがとう」

「でも、今家ないって」

「そう。だから野宿。だからじゃあね」


苦笑いを浮かべ手を振って足を進めると急に腕を三人同時に掴まれた。


「「「待って!!」」」


その行動に吃驚してると、三人は顔を互いに見合わせ、頷きあった。
そしてこっち来て!と言われながら腕を引っ張られつつ何故か連れて行かれた。
どうなるんだ私。




(あれ、道こっちであってたっけ)
(知るか)
(おい、お前ら!どっちに行く!森を抜ける道はこっちが最短だ!)
((本当いろんな意味で不安なんですけど…))






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