4.あまいもの
メフィストは、時々ふらっといなくなる。
ああ見えて多忙な人……悪魔だから、屋敷を出なければいけないことなんてたくさんある。屋敷にいる時間が長いのは、彼の有能さ故なのだ。ただやっぱり、外せない用事というのはあるわけで。
前に彼がいなくなった時、僕は1日中恐竜図鑑を眺めていた。そう、本棚事件のことである。しかし、今日は余暇のお供がいない。読書はメフィストの許可制になってしまったからだ。先に借りておけば良かったと思うも、時すでに遅し。
睡眠は満ち足りていて、他にすることがない。つまり、僕は今猛烈に、暇なのである。
ごろりと寝返りをうつ。ふかふかのベッドの上、心地よい日差し、キングサイズ寝返り打ち放題。これだけ条件が揃っていて、眠気が来ないとは、これ如何に。
さすがに、寝すぎたのだ。毎日毎日半日以上寝ていて、睡眠障害でもない人間がさらに寝ていられるはずもない。
部屋から出る、という選択はなかった。できればじっとしていたい。
あ、もういいや。考えたくない。寝転んでいれば時間も過ぎるだろう。そう結論付けて目を閉じた僕の耳に、気だるげな声が届く。
「こんにちは。アレ、寝てます?」
腕をつつかれた。どうやら寝ていると思われたらしい。これ幸いにと寝たふりを実行。……したのだが、おーい、と肩を激しく揺さぶられれば、自然に眉間には皺がよる。渋々重い瞼を持ち上げれば、なんだか見覚えのある少年の顔が視界いっぱいに広がっていた。メフィストと同じ、緑黄色の瞳。
「なんだ、起きてるじゃないか」
起きてるよ。
どうしたの、と聞くように首をかしげてみる。
「ねえ、遊びましょうよ。朔」
……まあ、いいか。丁度僕も暇だったし。返事の代わりにのそりと体を起こせば、アマイモンの目に喜色が宿った。ああ、この顔は嫌いじゃないな。
「ウノ」
「あー!ずるいですよ!」
カードを切っては配り、交換し、黙々とゲームを進める。ポーカーに飽きたらジジ抜き。ジジ抜きに飽きたらスピード。それにも飽きたらベッドでごろり。この慣れた流れも何度目だろうか。
今回はアマイモンが初めてウノを持ってきた。絵のついたカードをひたすら捲って何が楽しいのかわからないが、頭の運動くらいにはなっただろう。
でも流石に、飽きてきた。
そろそろやめようか、と伝えようとして、悔しそうに親指の爪を噛むアマイモンの姿が目に入る。僕に負けず劣らず無表情の彼は、その実、動作や瞳の色に感情が現れやすい。
僕は中途半端に上げられた手を下げた。楽しそうな彼を止めるのは、なんとなくはばかられたから。
「ア……アマイモン!どうしてお前がここに!?」
「朔と遊んでました」
「いつの間に知り合ったんだ!? くそっベリアルめ仕事が甘いぞ……!」
「兄上、ボクに朔をください」
「何を言ってるんだ!ダメに決まっているだろう!ですよね朔!?」
「この娘だって兄上よりボクがいいに決まってます」
「ええい喧しい!朔がそんなこと言うわけ………朔! 朔!? 嘘だって言ってください!?」
「(どっちもうるさい……)」
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