1.慣れる


気付けば漫画の世界にいて、僕は悪魔に拾われた。

ただの悪魔じゃないらしい。彼は虚無界にある十二柱の王の1人、時の王サマエル。もとい、正十字学園理事長ヨハン・ファウスト。もといもとい、正十字騎士団名誉騎士、メフィスト・フェレス。

肩書きが無駄に長い。しかし聞けば、これは序の口に過ぎないそう。彼を示す名はそれこそ数知れず。
まあ、どうでもいいけど。知ってたし。

「ぶっ……ブッハッハ!!」

アニメや漫画のグッズで埋められた一室、漫画雑誌を読みながら大笑いしているのがその悪魔。浴衣でごろんとソファに寝転んでいる姿は、とても上記の役職をこなす人間とは思えない。あとうるさい。うるさいのは苦手だ。
ふかふかのカーペットに蹲って、ねこのクッションをぎゅっと抱き込む。僕とちょうど同じくらいの大きさのねこは、驚きの柔らかさでいとも容易く僕の顔を呑み込んだ。
こうして何もせず暗闇にいると、段々頭がぼーっとしてくる。紙面を捲って、沈黙、爆笑。じっと目を閉じていれば、繰り返し聞こえた音がいつの間にか止まっていたことに気づく。

「おや、朔。眠いのですか?」

耳元で静かに囁かれて、優しく髪を梳かされる。もう答えるのも億劫だ。ねこに顔をうずめたまま黙っていれば、一体何が楽しいのか、機嫌を損なった様子もなく笑い声が降ってくる。返事ないのがわかっているなら、聞かなければいいのに。

まあいいや。寝よう。本格的に眠る態勢に入った僕の腰に、2本の手が絡まった。

「……ぁ」

浮遊感に思わず声が漏れる。あっという間にねこを剥がされて、僕の体はメフィストの足の間に収まっていた。逃げる素振りを見せると宥めるように頭を撫でられた。少し頭が痛くなる。早々に諦めて胸板に頭を落ちつければ、メフィストが上機嫌になったのがわかった。だって鼻歌を歌っているもの。
メフィストは僕の前に漫画を持ってきて、またぱらり、ぱらりとゆっくりページを捲り始めた。どうやら僕の後頭部越しに読んでいるようだ。
当然僕からも中身は丸見えなので、なんとなく目を通すうちに内容も頭に入ってきてしまう。読む早さが彼と同じなのか、ちょうど読み終わる頃に、次のページにうつっていく。

いけない、またぼーっとしてきた。
主人公が敵の大技を避けるシーンを無意味に何度も読み返しながら、くっつきそうになる瞼を必死にこじ開ける。
頭ががくんと揺れ動いたところで、僕は諦めた。もともと、さっき寝るつもりだったんだよなぁ。うん、そうだ、ここまで起きてたのはメフィストのせい。だから、せめてねこの代わりになれ。
のそのそと反転して、思うままメフィストの体に抱きつく。抱き心地は正直、良くはない。細いし硬いしなんか笑い声するし。

でもここから動く気もないから。彼にはしばらく、僕の抱き枕になってもらおう。



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