” I see ”


黒。

空間を裂くように細長く切り開かれた大きな穴。そこから裸の少女が落ちてきた時、メフィストは己が目を疑った。

光に透き通る白い肌。仄かに色付く花弁のような唇。少し力を入れれば折れてしまいそうな細い体躯。濡れた烏の羽にも見える純黒が艶やかに白いシーツを彩る。すやすやと寝息を立てて眠る姿は無垢な少女そのもので、情欲を掻き立てながら、なんとも犯しがたい、相反する美しさがあった。

予想外の出来事とはなぜこうも楽しいのか。まず出会いからして劇的であり、可憐な容姿がさらにメフィストを昂らせた。かの悪魔の大好物は日本のオタク文化と、魔性の美女と、可憐な美少女である。

さあ、少女の目が開かれる。早く、速く――私を見ろ。

「……ふ、ふはは、ふはははは!!」

驚愕。愉悦。響く狂笑。
長い睫毛に縁取られた瞼から覗いたのは、桜色。

寝起き独特の潤いを放つ瞳はどことなく色気を醸し出し、対照的なあどけなさの残る顔立ちが、それを見るものに背徳感を抱かせる。吸い込まれそうとはこのような感覚だろうか、とメフィストは思った。
ああ、吸い込まれそうだ。

「どうか。あなたの、名前を」

声は震えてないだろうか。少女を抱えたままメフィストが放った言葉は、どことなく懇願の響きを持っていた。虚ろな眼差しがメフィストを捉える。ぞくり、脊髄が甘く痺れた。彼女が口を開くのさえもどかしくて、メフィストは少女の頬にそっと手を添える。手袋越しに感じた温かい感触は、自分がずっと望んでいたもののような気さえした。

――そう、待っていた。彼はずっと待っていたのだ。

なによりも劇的で刺激的な何かを。
誰もが予想し得ない展開を。
彼の全てがひっくり返るような“特別”を。
舞台を壊す異質な存在(アドリブ)を。

この世の神さえ知りえなかった、その瞬間を。

「―――」

悲鳴を上げるでもなく、戸惑いに瞳を揺らすでもなく、悪魔を突き飛ばすでもなく。するりと告げられたか細い声に、メフィストは3度目の衝撃を受けた。歪めた口元を隠そうともせず、呟く。予想以上だ、と。

さて、前置きはもういいだろうか。
様式美としては十分ではないだろうか。

長々と語られた序章の根底、総括――言ってしまえば、その少女はメフィストの好みドストライクだった、というだけの話である。



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