17.開花


と、思ったのだが、熱はすぐに元に戻ってきたのでまた圧縮して箱の中に閉じ込めた。

あれはなんだったのだろう。紛い物ながら魔法円を使って悪魔を呼び出すのに、無意識に溜まっていたエネルギーを使った、ということだろうか。
ともかく、このまま訓練を続けていけばいずれ原因も分かるはずだ。たぶん。……そうだといい。

「持て」

そう言って差し出された銃が僕の意識を現実に戻した。受け取ると見た目に反して重みがあったが、想定範囲内だ。獅郎がさっきまで射撃の基礎を確認しながら実演してくれたから、グリップの温度は彼の温もりだろう。

「撃ってみろ」と獅郎が指さす的は、射撃場に来たことがない僕でもわかる、明らかに初心者向けではなかった。恐らく試しているのだ。その証拠に獅郎は気だるげな姿勢を見せながら、視線では僕の反応を逐一チェックしている。

はあ、と一息。薄々勘付いてはいたが今確信した。獅郎は神代朔が普通ではないと思い込んでいる。なぜだ。とんだ偏見。とんだ色眼鏡。その期待は、僕の心を躍らせない。

――本当に、めんどくさい。早く部屋に帰って寝たい。

お昼寝はしあわせ。最近は動いてばかりだったから、ごろごろするのは久しぶりだ。そうと決まればさっさと終わらせてしまおう。心なしか軽い足取りで、重い銃を両手で抱えながら位置につく。

ついさっき獅郎が見せた構えの形を、なぞる。それを自分なりに分析した姿勢に持っていく。背丈も腕の長さも違うのだから、当たり前だ。

「――……」

銃口を固定する段階になって、動く的に照準を合わせる難しさを実感した。――けれど。

息を止める。

一定の場所に留まることなく、縦横無尽に動く的は、難易度は高いが、実践向きだと思う。これを初弾で撃ち抜けば――。

「――……!」

腕全体に衝撃が迸った。撃った瞬間上にズレた銃口を見て、顔を顰める。かなり強く握っていたはずなのに。やはり全てがイメージ通りにはいかない。

弾は命中。的のど真ん中に寸分違わず風穴を開けた。

ひりひりする手の平を銃から引っぺがして、ぐー、ぱ、ぐー、ぱ。

「朔」

呼ばれて振り向くと、獅郎はかつて見たこともないくらい真剣な顔をしていた。

「強くなりたいか」
「べつに」

沈黙のあと、ふぅ、と獅郎は一息ついた。やれやれ仕方ないな、といった感じだ。

「有り体にいえば、お前には天賦の才能がある。無論祓魔師としての才能だ。聖書を苦もなく刻める脳。上級悪魔を喚び、従える力。そして紛れもない射撃の腕」
「……」
「原石のままでこれ(・・)なんだ。磨けば必ず、お前はすぐに上一級祓魔師になれる、そしてゆくゆくは今いる祓魔師の誰より強くなるだろう。俺が保証する」
「……」
「お前の狙撃を見て、俺はお前を育てたいと思った。お前の行く先が気になるんだ。どうだ、乗ってみないか」
「……ねむい。もういい……?」
「そうか!やってくれるか!父さん嬉しいぞ!じゃあ早速筋トレからな!」
「……ぐぅ」
「立ったまま寝るなーっ!!!」

夕方、自室のベッドで起きると、獅郎が話してた内容はほとんど忘れていた。



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