14.居場所


起きて早々。程よい温もりに意識を手放しそうになるのを留める。

はて。ベッドに移動した記憶がない。

昨夜は書きかけの手紙を持ったまま廊下に出て、執務室に顔を出して……たぶんあのまま寝入ってしまったのだろう。じゃあここまで誰が運んでくれたのか。
獅郎は昼頃に一度顔を出すだけで、昨日は既に訪問していったので、可能性は低い。アマイモンはここ最近見ていないし、失礼ながら彼にこんな気遣いができるとは思えない。それでは質問。誰もいないこの屋敷で僕を部屋まで運んでくれる人物は。

なんて、答えはもう出ているようなものだけど。

「メフィスト」
「はい。呼びました?」

ポンッ。音が鳴った方を見ると、ピンク色の煙がもくもくと広がって、シルクハットの悪魔が姿を現す。貼り付けた笑顔に目の下のクマが歪んでいる。顎の下にちょこんと生えた髭が可愛らしいと言っても、獅郎はきっと同意してくれないだろう。

「……もっと驚いてくださいよ」
「おどろいてる」

とても、とても驚いた。
これだけ放っておかれたということは、もう僕に飽きかけているのだと思っていたから。
なら僕を見て目を眇めるのはどうしてなのか。そんなの決まってる。だから驚いたのだ。
出かける前の変わりのない態度に、僕を見るときの優しげな双眸に、心の底から安堵した。

「おかえり」

ベッドから飛び降りてメフィストのお腹に抱きつくと、メフィストが驚く気配がした。ちょっとした仕返し。
でもすぐに体は弛緩して、頭の上におおきな手のひらが乗っかる。そんなに丁寧に撫でないでほしい。安心してまた眠ってしまいそうだ。
あと少し、少しだけだから。
まだあなたのそばにいたい。

「ただいま」

そうやって、簡単に“はじめて”をくれるんだから、僕はこの悪魔にかなう気がしないよ。





「ほらよ」
「はいはい報告書ですね☆お疲れ様です☆」
「……」
「それにしてもこのハンコ、センス皆無ですよね☆誰が作ったんでしょう☆」
「……随分と上機嫌だな」
「あれ?わかっちゃいます?」
「いつもより星がうぜぇ(そりゃ誰でもわかるわ)」
「建前と本音が逆ですよ古典的なギャグ使わないでください☆」
「……お前ら、そんなに仲良かったか?」
「なんのことですか☆私たちはいつもこんな感じですよ☆ねー、朔☆」

「……」

「ほら☆」
「1ミリも頷いてなかったが」
「心で繋がってるので☆」
「体もゼロ距離である必要はあんのか」
「朔、あーん☆」
「ん。あー……」
「おいしいですか?」
「ん……」
「朔、なんでそんなヤツに引っ付いてんだ。強要されたのか?」
「……」
「無理しなくていいんだぞ。イヤだったら俺がガツンと言ってやるから」
「……ありがと」
「これくらいどうってことないぜ」

「でも、これ……落ち着くから」

「ほらぁ!!!!!」
「なんだと!??!?!?」



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