13β.渡る


中学校から帰ってきた燐は、自分の机の上に一通の手紙を見つけた。

「なんだ……?」

手に取って見ると整った字で『奥村燐くんへ』と描いてある。雪男が彼宛ての手紙を置き間違えたと思ったが違うようだ。

しかし手紙を貰うような相手に覚えはない。男子修道士協会に身内へ手紙を送るような殊勝な性格の者はいないし、獅郎や雪男が言い難いことを伝える為にしては、封筒のデザインがかわいすぎる。顰めっ面の父と真面目な顔をした兄が花柄のレターセットを選んでいる姿を想像してブッと吹いた燐は、笑いながら手紙の封を開けた。

「えーっと、『いつもありがとうございます。特に肉じゃがが好きです。よければ、これからもよろしくお願いします。』……なんだこれ」

燐は首を傾げた。広い便箋の上端にぽつんと描かれた3つの言葉。書き途中なのだろうか。裏返しても他の文字は見当たらない。どころか差出人も不明だ。

「よお燐帰ってたか。おけーり」
「あ、親父。ただいま」
「あーそうそう!その手紙、お前がいつも飯作ってやってる()からだぜ」
「おお!例の偏食家!……待てよ、女だったのか!?」
「朔ちゃんってーんだ。あり、知らなかった?」
「聞いてねーよ!!聞いてたらもっとこう、女子っぽいヤツつくったのに!お菓子とか!」
「男に女子力高い料理作られたら普通の女子は引くと思うぞ」
「ぐ、それもそうだけどよ……」

獅郎の知り合いなんててっきり男だと思っていたので、今まで牛丼、ビビンバ、とんかつ……何も考えずに作ったスタミナ料理を思い出して燐は落ち込んだ。女子の胃ならきっと食べ切るのも苦労しただろうに……。まともに女子と触れたことのない燐の中の『女の子像』は、サンドイッチかお菓子を少しかじって「お腹いっぱい」と微笑んでいる。とんだ偏見である。

「お前が女子にどんな理想抱いてんのか知らねーが、朔は喜んで食べてたぞ」
「ほ、ほんとか!?」
「手紙に書いてないのか?」
「肉じゃがが好きだって……」
「ほれみろ」
「……まさか親父、ばあさんだったってオチはねーよな?」
「まさか。お前らと同じ年だっての。それより燐、他には何が書いてあったんだ」
「ん?あー……」

再び手紙に目を落とした燐は、便箋の端に柄ではないものを見つけた。猫のスタンプだ。欠伸をして、額のあたりには泡が3つぷかぷかと浮いている。何も考えていなさそうな猫の顔はお手本のような文字と明らかにミスマッチだった。

「……教えねー」
「えぇーー!?」
「手紙の内容なんて他人に教えるモンじゃねーだろ。人として!」
「そこはほら……俺と燐の仲だろ?一緒に風呂も入ったじゃねーか」
「ハァ!?いつの話してんだよ!」
「昔はこーんなに小さくてかわいかったのになあ……父さん父さんって二人で俺の後を追いかけて……ガハハ!」
「あー!!もういいから出てけー!!」



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