ヨーグルト


「ねーねー、駅前の喫茶店知ってる? 今月からビッグパフェ始めたんだよ。三人で行こうよ」

運動部男子二人と大食い一人なら十分食べ切れるでしょ、と苺は胸を叩く。




あの日から仁王は若松と二人で話せるようになった。といっても食べ物となると丸井が食いつかないはずがなく、悪気はないのだろうが会話にずんずん入ってくる。元々丸井のお蔭で進展したとはいえ、仁王からしてみれば邪魔で仕方がない。

「あー、悪い。俺ちょっと用事あってさ。二人で行ってこいよ」
「ブンちゃん?!」

折角の苺の誘いを断るとは酷い奴だと思ったら丸井からウインクされた。まさか彼は彼なりに『手助けしてやる』という約束を守ってくれているのだろうか。今まで文句言ってごめんしゃいと内心謝った。口には出さない。







「そっかぁ仕方ないね。
本当は四人分らしいけど、仁王君って甘いの沢山食べられる?」

ここで断ったら折角ブンちゃんが気を利かせてくれた二人きりデートが出来なくなる。ただ、そんな大量に食べられる自信があるかと言われたら、半々くらいだ。仁王は小食ではないが偏食家だ。肉以外はどうにも大量に食べられない。けど、たとえ翌日腹痛を起こしたとしても、苺と学校外で二人でいられるチャンスはこれしかない。

「も、勿論じゃ」
「やったー。絶対だよ?」


本当に嬉しそうに指切りげんまんをした苺を余所に、仁王は脳内で必死に当日のシュミレーションを開始していた。





***





仁王は朝飯抜いたら大丈夫じゃろ、と軽く考えていると丸井が「少しは米食っとかねぇと、いきなり甘いモン入れたらお前絶対辛いぞ」とアドバイスしてくれたからいつもの半分は食べてきた。食べ物に関してはかなり頼もしく感じる。





「やっほーこっちこっち!」

しまった、苺より早く来て待ってようと思ったのに……だが、時計の針はまだ約束の1時を指してもいない。

「待ちきれなくて、早くきちゃった」

仁王君もそうなの? と言われ、肯定するとニコニコと笑う。ここでようやく苺を見ると、白を基調としたふんわりイメージのワンピースがなんともお似合いで、これだけでもう来てよかったと思える。

「よーし、じゃあいざ突撃!」














甘い甘い甘い。こんなに食ったら俺砂糖になるんじゃないだろうか。仁王は既に限界を迎えていた。甘ったるい仁王を嗅いだ時点で自分に勝機を見いだせなかった。それに対し苺は元気にスプーンを進めている。今食べているのはヨーグルトパフェで、仮によくあるチョコレートパフェだったら甘すぎてギブアップしていたかもしれない。
こんなに甘いものばかり美味しそうに食べて、だから苺も甘そうなんだろうか。

「私がどうかした?」

ヤバイ! 声が漏れていたらしい。

「あ、いやぁ、若松さんの頬っぺはふにふにしててマシマロのようじゃ……なんて」

嫌われてもうた……終わった。こんな苦手な匂いの中でも、頑張って嫌われないように平常心を装っていたのに!








「ふふ、仁王君って可愛いね」
「かわ?!」

どうやら苺は今の仁王の台詞が気に入ったらしい。初めてスプーンの手を止めたんじゃないだろうか。そういえば仁王の減るスピードに気が付かないほど食べていたのだ。

「ごめん、男の子は可愛いって言われるの嫌何だったっけ」
「いや、そんなことなかよ……多分」

そう、それしきのことで苺のことはとても嫌いになれない。





「なんか二人で来てよかったかも」
「え、何でじゃ?!」




ま、まさか……俺のこと…………?




「ほら、これって名目上4人前なのに、上に乗ってるバナナとかポッキーとか、トッピングが各二人分しかないでしょ? こんなの4人で来たら喧嘩になっちゃうよ」
「あー………………そうじゃな」

なんだろう、このぬか喜び的な虚しい心境は。



「仁王君は何が好きなの?」
仁王の心は露知らず、苺はラストスパートのフレークを突きながら新たな食べ物に関心を持ちだした。
その答え、スイーツじゃないと駄目なんだろうか。



「俺、焼肉が一番好きじゃ」

苺の機嫌を取るなら付ける嘘は沢山ある。けれど、こんなくだらないことで嘘をついて後でバレたらもうどうしようもない。仁王は正直に言った。


「うん、やっぱり男の子はがつがつ食べないとね! 今後一緒に行こうね」




今度も、一緒に。





それだけで、やっぱり幸せな仁王だった。



ビッグパフェは二人だと具が分けられて良いです。けれどフレークゾーンが地獄でした。
そして気が狂ったのかわかりませんが、タイトルの数字を食べ物で表してみました、今更。するとパフェの回なのに「ヨーグルト」とよくわからないことになりました。そしてタイトルに合わせてヒロインデフォルト名を苺ちゃんにしておきました。どうでもいいこだわり。
そろそろ完結させたいです。
20110926

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