にんじん


「仁王って偏食多いよな?
若松と仲良くしたいなら、それなりに量が食えねえとキツイかもな。まあ若松はカフェ女友達がお茶だけを頼んだときも一人でパフェ食ったりするらしいから、そこまで気にしねえかもしれねえけど」

あれからブンちゃんによって、面倒だと言いながらもノリノリで苺さんについての説明を受けた。それを聞いて少し怖じけづく。だって俺どっちかと言うと偏食タイプじゃし……肉なら沢山食うけど。





「ていうか、食べモン以外の趣味とかは?」
「俺が知るわけないだろぃ。知ってたら知ってたで怒るくせに」

我が儘だな、と言う彼はまるで弟を宥めるよう。そのままやれやれと立ち上がった。

「ま、思い立ったらすぐ行動! 食いながら色々聞きゃいいんだって」
「そんな、いきなり話せるわけなか!」
「そんなこと言ってたらいつまでも話さないだろぃ、腹括れって」

俺は嫌じゃ嫌じゃと踏ん張ったが、ズルズルと廊下を引きずられてしまった。





***




「よぉ若松、これ食うか?」

教室に戻るや否や一直線に若松さんのところに行く。ブンちゃんは気さくに話しかけられてええのぅ。俺はブンちゃんを引き止める間もなく、仕方なくついていく。いかん、若松さんが近くて死にそうじゃ!



「あ、プッチョの新作味! やったー」
一人で読書をしていた若松さんは、いきなりの登場に何の疑問も持たずお菓子に目をキラキラさせる。可愛えのぅ。
ありがとう、といいながらその白く細い指でプッチョを掴む。



(き、綺麗じゃ……)



どれくらい見とれてしまっていたんじゃろうか、気付くとクスクス笑ってこっちを見てるではないか。

「丸井君、仁王君にもあげたら? 物欲しそうに見てるよ」

それは誤解じゃ。俺が見とったんはプッチョじゃなくて若松さんで……うわなんか恥ずくてもう死にたい。






「仁王君もスポーツマンだからお腹空くよね。私からもこれあげるから元気出して」

手渡しに届いたクッキーの箱。微かに指に触れた。ちょっとひんやりしていた。
丸井君と一緒に食べてね、なんて言葉はもはや聞こえていなかった。


20110913

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