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疲労困憊、まではいかないが、それでも常に気を張うようになり、少しずつストレスが溜まっていくのは事実だ。
だが、部員や家族に迷惑をかけるわけにもいかず、普段通りに家を出る。
門や靴箱で出会った仲間に「おはよう」と交わし、どこか安心する。確かにここには俺の居場所があるのだ。何も問題はない。今朝も郵便受けには何も入っていなかった。ついに誰かも懲りたのかもしれない。
ガラガラと扉を開け、教室に入る。
その瞬間、クラスの空気が固まった。
「…………?」
おどおどした者、変な顔で見る者、中には蔑んだような目で見る者。皆が皆、こちらをじーっと見てくるではないか。
顔に何かついているのか、それとも服装がおかしいのか。訝しめながらも、自分の席に着き、そしてわかった。
机の中に、何かが入っている。
それは、忽那の体操着だった。
何故、俺の机の中にあるのか。
「京子ちゃんの体操服取ってどうするつもり?」
「何だこれは! 俺は知らん」
「でも、普通真田君のところにあるわけないじゃない」
「違う、本当に覚えがないのだ」
「じゃあなんで入ってるの」
眩暈がする。
先ほどの微かな希望は一瞬で打ち砕かれ、あっという間に俺は孤独の泥棒扱いだ。何故。
冷え切った教室にメスを入れるかのごとく、ガラガラガラッ!
と勢いよく扉が開いた。
「おはよー」
それは、張本人の忽那だった。
「あれ、皆真田君の席に集まって何してるの? 集会今日あったっけ?」
「京子ちゃん、これ!」
忽那はまじまじと俺の机を見て、そしてそれが自分の物であると認識すると、一瞬表情をかため、
ケタケタと笑い出した。
「あーこんなとこにあったんだ。もしかして皆真田君が取ったって思ってるの?
違うよ、真田君がそんなことするわけないじゃない。昨日ね、体操着持って教室に出たはずなんだけど、家に帰ったらなくて、途中でどこかに落としちゃったの。
そしたら夕方友達からメールがきて『京子の体操着廊下に落ちてて、家わからなかったから教室に戻したよ』って連絡が来たの。その子別のクラスだから、私の席間違えちゃったみたい」
あとであの子叱っておくから、皆紛らわしいことさせてごめんね。
「なんだー」「やっぱり」
真面目な真田君がそんなことするわけないもんね、ごめんなさい。と次々と謝られた。
先ほどまであんな気持ち悪いものを見るかのような目が、一瞬で変わるとは。
そのあと来た柳生が「真田君は放課後私と一緒にまっすぐ部室へ行き、最終のチャイムに走って正門を出ていたので教室に行くのは無理ですよ」と言ってくれたため、完全に俺の無実は証明された。
……助かった。
そこで丁度予鈴が鳴り、担任が出席を取り始める。何事もなかったかのように、恐ろしいくらいいつものように授業が行われた。
そのため俺は忽那にお礼を言う暇さえなかった。
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