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怒涛の朝を終え、安心感と軽い放心状態から気が付けば一日を終えるチャイムが鳴っていた。いつもならこのままテニスコートに足を運ぶが、今日は荷物をまとめ靴箱へ向かう。
いつものように幸村と帰ろうかと思っていたが、委員会があるそうで俺は一人で帰ることにした。



正門を抜け、住宅街の道を曲がる、その目の前の電柱から俺は声をかけられた。
「あれ、真田君」
「? 忽那か」
「何してるの? 部活は?」
「いや、今日は休みで……」
電柱から影になっていたため忽那がいたことに気付かず俺は少々驚いたが、相手がいたって普通に話しかけるものだからそういうものなのだと納得させる。

「へえ、奇遇だね。家こっちなんだ。私もだよ、折角だし一緒に帰る?」
「う、うむ」
丁度あのときの礼を言わないといけないところだった。







「真田君ってさ、もしかして私のこと嫌い?」
忽那の嫌いな数学の教師の話が終わると、忽那はやや悲しい顔をした。
「なぜだ」
「だっていつ話しかけてもぎこちないし……委員会のときは結構普通だと思ってたんだけど、仕事だから仕方なくやってるのかなって」
「別にそんなことはない。むしろ今日のことだって感謝しているのだ」

『ありがとう』その一言が、中々出てこない。
道路は中心地でもなく車も何も通らない。まだ日も高いというのにあまりに静かだ。
静かだから、忽那の変化にいち早く気づくことができた。


「きゃ」
先ほどまで隣にあった忽那の姿が消え、急いで振り向くと石にもたつきこけてしまっていた。左膝が擦り剥けて血が滲んでいる。

「大丈夫か!?」
補助バックからタオルを取り出し止血に取り掛かる。部活をやっている関係で傷の手当は慣れているのだ。忽那は気が抜けているのかそれをぼーっと見ていた。
「ありがとう。洗って返すから。ごめんね」

忽那には借りがある。こんなことお安い御用だ。『ありがとう』が言えない分、せめてこれくらいはしないと人間としても男としても終わっている。



「じゃあ、私の家こっちだから」
交差点が見え、俺とは逆の左方向を指さす。
ばいばい。忽那が手を振りこちらもぎこちなく振り返し、姿が見えなくなるまで見送った。

今日は変な視線を感じることはなかった。



20120225

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