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たとえ39度の熱が出ようと、休むことはありえない。男子テニス部の副部長である以上、軟な病気で休んでは部員に面目が立たん。
だが、今日は嫌に身体が怠いのだ。体温計に手を伸ばしたが平熱で、咳も鼻水もない。
こういうとき、予防で安静にしていたら大事にならずに済むのだ。学校へは行くが、訳を話して外周は減らしてもらおう。
本日のスケジュールを淡々と組みながら俺は何かに気づかないふりをして家を出た。




あれから学校に来たものの、一限は少々ぼーっとしまった。不甲斐無い。二限は体育。成績を落とさんためにもしっかりせねば。席を立ち、更衣室に向かおうとした矢先。

「真田君、顔色悪いよ。大丈夫?」

俺に声をかける女子は限られている。風紀委員の忽那だ。女子の注意は俺が言っても聞かないことがあるため、彼女は真面目に委員会をしてくれる。
「いや、悪い。なんでもない」
「嘘。部活も委員会も学業も何にでも頑張りすぎなんだよ、真田君は。
もう少し肩の力を抜かないと。
とりえあず、体育は見学した方がいいね」
「いかん! 俺が授業をさぼるなど……」
「さぼりじゃないでしょ、体調が優れないんだから。今まで好成績を収めてるんだし、先生だってまさか真田君が仮病なんて疑うはずないじゃない。
それに今無理して、後からどうなっても知らないよ?」
忽那とは委員会で話す程度。まさか親しくない者にこうもはっきり伝え、案じることが出来るとは。正直驚いた。その迫力に俺は負け、体操服に着替えることをやめた。

俺が体育を見学したのは、何故か学内に広まった。






「今日は帰った方がいい。一日休んで回復するのと今日無理して三日休まれるのでは重みが違う」
放課後、やはり部員には今日の体育の話が広まっていたようだ。
蓮二の意見は常に論理的で俺などの疑う余地がない。が、もうすぐ大会が控えているのだ。
「だが、あれは忽那に押されただけで……」
「忽那もそう思ったから無理にでもお前を休ませたんだろ。感謝した方がいいんじゃないか?」

蓮二にそこまで言われては言い返せない。
帰り際、妙にそわそわしている赤也に「明日休んでも良いッスよ!」と言われたので是非とも明日はしごきたいものだ。
柳生には「一緒に帰りましょうか?」とまで心配されたが、「ずるいナリ。正攻法で部活をさぼるつもりか?」と仁王が文句を言っていたし、そこまで大事でもないので断った。くらくらするほど気分が悪いわけではないのだ。皆何故そこまで俺を気遣うのか。
……だが、確かにいつの間にか入院するほど命取りになることがあれば、マズイ。
今年の立海は、技術面でも揺るぎがないのだ。


当然のように無事に帰宅し、今は誰がいるかと考える。俺がこんな時間に帰るのはテスト期間くらいなものだ。おじい様はなんとおっしゃるだろう。「情けない」と喝を入れられ最悪滝修行コースに走りそうだ。
いつもの動作で、何気なく郵便受けを探る。そこには真っ白な封筒が一便だけあった。
母か兄の携帯会社だろうか、と宛名を見るとなんと俺宛ではないか。

俺はその手紙を見て、思わず手を放してしまった。
ぱさりと足元に落ちた手紙にはこう書かれていた。






『今日は体育大変だったんだね、身体に気を付けてゆっくり休んでね』


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