小説 | ナノ


▼ 

 
 

 男は扉の前の女に目を向ける。


「信じられないとでも言いたそうだな」
「いや…あの…」
「しかし、事実だ」

 一歩一歩、レイに近づいていく。

「なぜそんなことをしたか疑問だろう。我輩自身にも分からなかった。しばらくはな」


 カツ。

 カツ。

 カツ。

 あの時よりも重さの増した音が響いている。
 レイはどうしていいか分からなくて、俯いた。


「かなりの難問だ、ホグワーツを卒業してもまだ分からない。しばらくして、お前に再会したときようやく解けた…自分でも理解できない」

 低い声が、穏やかに降り注いだ。

「あの時我輩は、怒っていた。お前を泣かせたあの教師に」



「…理由は分かるだろう?」



 いつの間にか頬が濡れていた。
 気づいた途端、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちてゆく。

「ごめん」

 止めようとするが、一度流れ出してしまうとなかなか止まらない。

「謝るな」
「…ごめん。どうして私泣いてるのか…ごめんなさい」
「謝るなと言っただろう」

 骨ばった手が伸びてきて、レイの頬を軽くぬぐう。

「前言を撤回しよう。お前はまるで昔のままだ」
「…ごめんなさい。うう…っ」
「謝るのはそれで最後にしろ。いいな」

 見上げた顔は、過去のどんな彼よりも、優しかった。



「それにもう泣く必要もないだろう――これからはもう失恋なんて、したくともできなくなる」




 

prev / next


[main]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -