「あるじさま、ここにあるお野菜、あとどれくらい切ればいいですか?」
「んー今日の出陣組と遠征組は大食らいが多いからな…ここにあるやつは全部切ってもらっても平気?」
「はい!わかりました。」
「手伝ってくれてありがとうね、五虎退。」
「そんな、とんでもないです!それに、みんなも頑張っていますし…」

時刻はあと少しで時計の針がちょうど真上を指す頃。あと一時間ほどすれば、お腹を空かせた食べ盛りの刀剣男子達が広間に集まって来る。
そんな広間の隅で、真っ赤なトマトやら瑞々しいレタス、食べ応えがありそうなキュウリ…一般家庭では考えられないほどたくさんの野菜を、この本丸の審神者と五虎退の二人は並んで切っていた。そしてこの広間の隅からは、食べ盛りの刀剣男子達の食事を毎日作っている審神者の助けになろうと、慣れない仕事をしてそれぞれ頑張っている刀達の姿がよく見える。

「…なんだか不思議な光景だね。」
「どうかしましたか、あるじさま。」
「だって…出陣の時に見る顔とか動作と、ぜんぜん違うから。あ、ほら。あそこで蛍丸が火傷しそうになった。ふふっ…明石ったらあんなに慌てちゃって。あっちは、伊達の刀達がわいわいやってるね。見て、光忠が挟んだサンドイッチ!アメリカのおしゃれなカフェのやつみたい…」

部屋の隅から大広間を見回す審神者の瞳は、自らが顕現した何より愛おしい刀達の姿が真っ直ぐに映っていた。
部屋の端で静かに野菜中心のサンドイッチを作る左文字三兄弟。真ん中に座る小夜が庭から摘んできた小さな青い花をサンドイッチの上に飾ると、両脇の兄達の顔も朗らかに緩んだ。
新撰組の刀達は、具材切りから逃げたそうにしている不器用な和泉守を堀川が叱り、その隣では加州と大和守が具材を取り合って言い合いをしている。そんな彼らを横目に見つめながら、長曾根は浦島に腕を引かれながら、色鮮やかな具材をたっぷりと挟んだ蜂須賀の所へと連れてかれている。彼の姿をみるなり顔をしかめる蜂須賀だったが、その顔は何だかんだ喜んでいるようにも見えた。

「あるじさまは、僕達のことをいつもよく見てくださっていますね。今日だって、みんなでサンドイッチを作ろうって声をかけてくださったのはあるじさまですし。」
「ふふっ、そりゃあね。確かにご飯を作るのが大変なのは事実だけど…みんなが慣れないご飯を作ってる姿、見たかったから!」

心底楽しそうに、満足気な笑みを見せながら言った審神者は、切っていた野菜を籠にまとめて入れると、それを持ち上げながら声を上げる。

「みんなーまだまだ具材あるからね!たくさん作らないと、いつまでたってもご飯に出来ないよー」

審神者の声に素直に返事をする刀もいれば、ええーと渋い顔をする刀もいる。大きな刀達はそんな顔をする刀を戒め、素直な刀達はラストスパートと言わんばかりに作業していた手を早め始めた。そんな彼らの姿を見つめていた審神者の表情が、再び緩む。
今日の本丸のお昼に並んだのは、この本丸にいる刀達のように、具材や大きさが様々なサンドイッチ達。パンから中身まできっちりと角を揃えられたものもあれば、可愛らしくハート型に切り抜かれたものもある。不器用なのか、具材がはみ出てしまったものもあれば、具材が野菜だけ、肉だけに偏っているものもある。けれど、それがいいのだ。
出陣と遠征から帰還した刀剣達も次々と広間に集まり、聞こえてきたのは…弾けんばかりの声。

「いただきます!」


このままで、このままなら

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