桃色、檸檬色、翡翠色に紅藤色。軒先に吊るしていた風鈴を一つずつ外していく度に、ちりんちりんと軽やかな音が鳴り響く。その音に寂しさを感じながら、私はそんな光景を着崩した浴衣姿で軒先に腰掛けながら見つめている美しいひとに声をかける。

「もう今年の夏も終わりですね。」
「そうねぇ。今年の夏は軒先が風情あって素敵だったから、ちょっと寂しくなるわね。」
「ふふっ。そんなに気に入ってくれてたんですか?それなら家から持って来た甲斐がありましたよ。あっ、そろそろそうめん茹で上がったと思うので、ちょっと待っててくださいね。」
「なになに!?今日のお昼はそうめんなの?いいじゃない!早速日本酒を…」
「あっ、最期の一本だった日本酒、さっき四月一日と二人で鶏肉の仕込みに使っちゃいましたよ。近いうちに唐揚げしたいなって四月一日と話してたので。」
「ええっ!?ちょっと嘘でしょー四月一日に頼んで買ってきてー」
「四月一日、今家に着替え取りに行ってますよー今日こっちに泊まるらしいです。」

その妖艶な容姿からは想像できない駄々っ子っぷりを見せる侑子に対し、いつものことだと簡単にあしらう彼女は、マルとモロに任せているキッチンへと戻ると、しっかり者の二人の頭を撫でて最期の仕上げに取り掛かる。
夏最期のご飯は、まだ少し蒸し暑い夜にもさっぱり食べられるレモンそうめん。
茹で上がったそうめんをざるへと移し、流水で冷やしたら、四月一日が仕込みをしてくれていた汁を竹の取手が着いた硝子の汁差しに流し込み、そうめんは汁差しとお揃いの群青色が差し色が入った硝子の器へと盛り付ける。そして最後に、そうめんの上に冷えたレモンをのせたら。レモンそうめんの完成だ。
出来上がった料理を竹のおぼんへと乗せて軒先へと戻ると、未だ口を尖らせた侑子の姿があり、彼女は思わず苦笑を浮かべる。

「侑子さん。レモンそうめん、持ってきましたよー」
「えっ!?今日レモンそうめんだったの!?先に言ってよー」

しかし彼女が持っている器を見るなり目を輝かせる侑子は、この姿だけ見れば無邪気な少女のようだ。
軒先にある小さな机におぼんを置くと、侑子はいただきますと手を合わせて、丁寧な所作で箸を取る。そしてそうめんとレモンをつゆへと着けて一口食べると、赤い唇の端をきゅっと上げてはにかんだ。

「かつおと昆布だしの汁に生姜が効いてて…にんにくの摩り下ろしとレモンの相性もいいし、仕上げの胡麻の香りも引き立ってるし……あなたと四月一日の料理は何度食べても美味しいわね。」
「ふふっ。ありがとうございます。そこまで褒められると、四月一日と一緒に考えた甲斐があったものです。」
「また食べたいわねぇ。涼しい夏の夜に、このそうめん。」
「そんなに気に入ってくれたなら、来年もいっぱい作りますから。安心してください。」

彼女の言葉に対し侑子は何を答えるわけでもなく、ただ微笑むだけだった。しかし彼女はその笑みに短い夏とは比べ物にならないほどの寂しさと儚さを感じた。
生姜と胡麻の香りが引き立つ、爽やかなレモンそうめん。あっという間に終わってしまった今年の夏の、最後の夕食。


儚いものの例え

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