剥がれ落ちた日を手でなぞる


あなたが深い夢の中でも
迷わないように
わたしが手を伸ばすから
だからどうか
その瞳を閉ざさないで

あなたが深い闇の中でも
迷わないように
わたしが光を灯すから
だからどうか

あなたの傍に


なまえが生まれたみょうじ一族には、木の葉創設期に誕生してから言霊を操る力…言霊の術を持っていた。
言霊の術とは潮留一族の血継限界で、全身のチャクラを練り上げ、喉から発した声を繋げた歌で相手に干渉することによって作用を仕掛ける術だ。歌の音色によって相手に施す作用も代わり、歌の楽譜は代々受け継がれてきた。
そんな、受け継がれてきた歌の中で最も大切にされてきた歌があった。その歌は歌い手の想いを受けて、歌い手の願いを叶えてくれるのだという。歌い手の想いが強ければ強いほど、願いは現実になる。なまえはその話を母親から聞いた時、争いを嫌う一族らしい歌だと思った。そして、そんな優しい一族だったからこそ思うままに利用され、いつしか数えるほどしか生き残りがいなくなってしまったのだと。
人は自分にないものを欲しがり、妬む生き物だ。だからこそ一族の力を思うままに欲し、力が必要となくなってからは一族の力を''化け物が持つ力''として蔑んだ。いつしかその蔑みは一族の者の体質にまで広がった。みょうじ一族の者は、代々透き通るような色素の薄い髪に眩い金色の瞳を持っていた。極め付けは小さな怪我は一瞬にして治し、老いが遅い肉体。その体は水に愛され、一族の者達は遥か昔から水を司る自然と共存して生きていた。そのため、一族の者達は他の者から''水の精霊''…''人魚''と呼ばれていた。しかしいつしかその呼び名は蔑みとして使われるようになり、その呼び名も更に歪められていった。
体に流れる血はどんな病や怪我も一瞬で治し、みょうじ一族の血を飲めば永遠の命を手に入れられる。一族の者を手懐ければ、どんな願いでも叶う。尾鰭がついた噂と共に、いつしか一族の者はこう呼ばれるようになった。''美しき怪物''と。
繰り返された戦争に加えて、特別な血を狙った"人魚狩り"という残酷な行為も重なり、一族は衰退していった。そして、ひっそりと森の奥に暮らす者、創世記から交流のある木の葉に保護される者と、住む場所を転々としながら、細い生を繋げていた。
"人魚狩り"と称して両親を殺されたなまえも、木の葉の里に保護されている者の一人だった。保護と言っても、結局その力を恐れてのことなのは言うまでもなく、なまえは里の外れにある小さな屋敷に追いやられた。
優しさと自己犠牲を続けた一族は、結局衰退した。だからこそなまえは思ったのだ。自分は自分のために生きる。受け継いだ言霊は全て自分が生きるために使うと。そう誓った…誓った筈だったのだ。

「…こんな世界、大嫌いな筈だったのにな。」

二人の英雄の手によって永遠の夜が明けた世界に、ようやく朝日が差し込む。吐き出すようにこぼしたなまえは、そんな朝日に向けて自らの細い腕を伸ばす。
今まで見てきた朝日の中で一番眩く感じたその光は、この光を咲かせるためにたくさんの命が散っていったからだろう。そして、その一つ一つの命には必ず大切なひとがいて、行かないで欲しいと叫ぶひとがいて。愛しているとこぼしながら涙を流すひとがいる。大切なひとを全て奪われたなまえにそれを教えてくれたのは皮肉なことに、なまえの大切なひと達を踏み台にして育ってきた新しい大切なひと達だった。そしてその中には、初めて誰かの力になりたいと気づかせてくれた一番大切なひともいる。
ようやく、長い間続けていた戦いに終止符を打った二人の英雄…うずまきナルトとうちはサスケの周りを、たくさんの仲間達が取り囲む。二人を呆れたように見下ろすのは、第七班の師であるはたけカカシ。病人に向けるものではない怪力で二人の頭を叩く、春野サクラ。サクラはふと何かに気がついたように後ろを振り返ると、眉を寄せながら大声を上げる。

「ちょっとなまえ!つっ立ってないでアンタも手伝いなさいよ!!アンタにも言いたいこと山程あるんだからね!覚悟しときなさいよ!!」

怒号のようなサクラの声を聞いたなまえは、思わずくすくすとこの場に似合わない笑い声を上げる。それを聞いた一同は相変わらずなまえは命知らずだと呆れたように笑い、カカシは隣で拳を握るサクラを見て一同となまえの間を慌てたように行き来する。ナルトはそんな光景を見つめながら苦笑をし、サスケも…ここ数年の間背負ってきたものが少しばかり落ちたかのように。少年時代に見せていたものと変わらない笑みを浮かべている。
それを見たなまえは、ようやく一族の者達が今まで何を想って願いを叶える歌を歌ってきたのか気がついた。どれだけ傷つけられたとしても、いつか支えてくれる大切なひとができる。大切なひとがいれば、どれだけ苦しい世界でも生きていける。
なまえの瞳からは涙がこぼれ落ちていた。自分の金色の瞳も、色素の薄い髪も大嫌いだった。何も変えることが出来ない自分も、正義などない世界も。大嫌いだった。でも今は、不気味な金色の瞳を綺麗だと言ってくれる人もいれば、透き通るような髪はあなただけのもので羨ましいと笑ってくれる人もいる。そして何より、優しいあなたが好きだと抱き締めてくれるひとがいる。
いつの間にか手を引かれ、少女時代を過ごした同じ第七班のメンバーの前に連れて来られたなまえの周りで、この世界で出会うことのできたたくさんの大切なひとが微笑んでいた。

「なまえ。」

そして、いつの日か。初めてなまえに手を差し伸べてくれた愛する青年…サスケがなまえの名を呼ぶ。彼の傍にいるためならば、たとえ闇に落ちても構わないと思った。そんな、彼とたくさんの大切なひとが生きる世界のこれからを、少しでも優しいものにしたいと思った。自分のためではなくて、彼らのために受け継いだ歌を歌いたい。大切なひと達のために''願い''を叶えたいと。

「どうか…私と引き換えに、私の大切なひと達が幸せになれる世界をください。」


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