わたしが睡るその日まで


「…あれ、何だろうこれ。」

居間に積み上げられたダンボールの中身を整理していた少女は、ダンボールの奥底に眠っていた小さな箱を手に取って、首を傾げた。
怪力の母はよく家を破壊する。普通の人が聞いたら耳を疑うであろう事件だが、幼い頃からこの珍事件につき合わされている娘…サラダは、膨大な被害が及ぶことももう慣れっこだった。事件が起こる度に崩壊した元自宅から荷物をかき集め、元の家が直るまで近所のマンションで暮らさなければいけないのだが、少しの間暮らすといっても、まず荷物を広げなくてはならない。
今見つけたばかりの不思議な箱の前にも、何だかよくわからない物は何個かあった。しかし今この手の中にある箱は、他のものとは何かが違う気がした。小さな箱は透き通るような水の色をしており、誘われるように光に透かすと、やはり美しく日の光を反射した。そんな小さく美しい箱には白い蓮の花が緻密に描かれており、サラダは見れば見るほどそんな美しい箱には何が入っているのか、気になった。蓮の装飾に包まれた箱の蓋に力を込めた、その時。

「サラダー?ちょっとこっち手伝ってくれない?」

まるでサラダを引き止めるような、絶妙のタイミングで母の声が響いた。母の声は見慣れない箱に心を奪われていたサラダを一気に現実へと引き戻し、サラダは少し後味が悪いと感じながらもその場を立ち上がり、母に返事をする。

「はーい!今行くー!」

サラダの手を離れた小さな箱は、居間の真ん中にある棚の上に並べられた。棚の上にはたくさんの写真立てが並べられており、小さく美しい箱は棚の上ではその存在を薄めてしまう。しかし、小さな箱はどこか居心地が良さそうに、とある写真立ての傍らに寄り添っていた。その写真立てのフレームは長年使われた証として所々に細かい傷がつき、写真も少々日焼けしてしまっている…しかし、写真の中に映る少年少女の表情は、そんな時間の経過を感じさせないほどに鮮やかだ。
写真の両脇で睨み合うのは、まばゆい金色の髪の少年と静かな黒い髪の少年。どちらも互いを目の敵のように睨みつけているが、その瞳の奥底には、互いを認め合う優しい色が灯っていた。そんな二人を近づけるように銀色の髪の青年が笑顔で頭を抑えつけ、その下で桃色の髪の可愛らしい少女が頬を染めながら笑っている。そして、桃色の少女の傍らに…もう一人。
少年二人とは正反対に、桃色の少女と肩を寄せ合うのは、儚い色を持った少女。垂れ気味の瞳は弧を描き、白い輪郭は今にも溶けてしまいそうだった。その顔に浮かぶ表情が、彼女をその場所に繋ぎ止めていた。
彼女の顔に浮かぶのは…優しく鮮やかな笑み。その笑みは一目見ただけで彼女が"幸せ"だということを伝えるに十分だった。


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