「お忙しいのに、時間を作っていただいてすいません。」
「気にすんなってばよ!」

あまりに眩しい笑みを浮かべながらそう口にした男性…今は木の葉の里の七代目火影であるナルトさんに、わたしは少し拍子抜けして目を丸くした。ナルトさんはこの世界を救った英雄で、サスケさんとサクラさんとは同期。元々顔の広い母はそんなナルトさんとも親しく、わたしもナルトさんには幼い頃からよくしてもらっている。幼い頃からの知り合いと言っても、ナルトさんは誰もが知っている火影様。わたしは手汗が滲む手のひらを握り締めながら、何とか緊張をほぐそうと小さく息を吐いた…しかし、そんなわたしの行動の意味はなにも口にしなくてもナルトさんにはわかってしまったようだ。

「そんなに固くなるなってばよ。火影室の外でなら、昔みたいにナルト兄ちゃんって呼んでくれていいんだぜ?」
「う…さ、さすがにそれはちょっと…恥ずかしいです。」

昔の自分のことを思い返し、思わず赤面して俯いたわたしの頭を、ナルトさんはぐしゃぐしゃと撫でた。少し痛いだとか髪が乱れるだとか…そんな思考はいつの間にか消えていて、わたしの胸に過ぎるのは幼い頃から密かに抱き続けてきた思い。様子を窺うように少しだけ顔を上げたわたしの目に映るのは、幼い頃から少しも変わっていない眩しい笑顔。一見少年のように無邪気な笑みだが、その中にはわたしの母が滲ませていたものと同じもの…親になった人が見せる色が含まれている。幼い頃にナルトさんの笑みを見てから、わたしはずっと思っていた…もしもわたしの父が生きていたならば、こうしてわたしを撫でてくれていたのか、と。
自分自身で調べるまで父のことをよく知らず、どちらかというとあまりよく思っていなかったわたし。それでも、ナルトさんの姿や父と母、そして子が揃っている家族を見ると、叶うことのない思いが胸に巡った。今まで口にしたことのないわたしの思いを知ってか知らずか。ナルトさんはわたしの頭をやや乱暴に撫でていた手を止めると、気を取り直すように口を開いた。

「それにしても、お前もおっきくなったな。ついこの間までなまえさんがいなくなるとすぐに泣いちまうちびっ子だったのに。」
「…でも、わたしなんてナルトさんやサスケさん達に比べたらまだまだです。」
「なーに言ってんだってばよ!もう上忍で隊長も任されてんのによー」
「でも、母や父はわたしの年にはもっと厳しい任務にも着いていたって綱手さんから教えてもらいました。」
「ばーちゃん…余計なことは言わなくていいってばよ……」

深い深い溜め息をつくナルトさんの隣で、わたしは一人俯いた…それにわたしは最近、わたしを心配したサクラさんがナルトさんになにか伝えたようで、殆ど任務に出ていない。母は父が姿を消しても、感情に捕らわれずに任務に出ていたのに。どんどん悪い方へと思考が捕らわれてしまうわたしは、自分でも気がつかないうちにきつく手のひらを握り締めていた。そんなわたしに対し、ナルトさんは再び眩い笑みを浮かべながら口を開く。

「おまえはおまえだろ。父ちゃんと母ちゃんと同じにならなくたっていいってばよ。それに、心配しなくてもおまえは両親にそっくりだってば。」
「え…?」

ナルトさんの言葉を聞いたわたしは、弾かれたように俯いていた顔を上げた。顔を上げたわたしの前で、ナルトさんは得意げに話を続ける。

「まず…顔立ちはイタチに似てるってば。おまえが生まれた時に、サスケも同じ事言ってたから間違いないってばよ。」
「それなら母もよく言っていました。わたしの顔は父に良く似てるって。」
「これでまず一つだってば。で、髪の色はなまえさんと同じだろ。あとは…」

写輪眼を使った幻術での戦い方は父に似ている。口寄せで鴉を使うところも同じ。性格はどちらかというと母に似ていて、笑った顔の雰囲気は母と瓜二つ。他にも甘いものが好きで、家族思いなところが父に似ている。いつもは穏やかなのに、怒るととても怖いところは母そっくり。それから、一度口にしたら曲げない頑固なところも…自分で理解できていたところからあまりわからなかったところまで、ナルトさんは細かくわたしに教えてくれた。
わたしはいつの間にか口を閉ざし、言葉だけに耳をすませるようにそっと瞳を閉じた。

「まあ、似てても似てなくても…なまえさんも、イタチも。おまえのことを愛してるってばよ。オレも、ボルトとヒマワリがどんな姿になったとしても…愛してるからな。」

相変わらずの眩い笑みに照れたような表情を加えて、ナルトさんはそう口にした。その中に確かに滲むのはとても優しい眼差し…そしてそれは、わたしが何度も見たことがあるもの。
サラダちゃんの母であるサクラさん。父であるサスケさん。そして…わたしを女で一つで育ててくれた母さん。みんな子供の話をする時は優しく目を細め、子供が愛おしくてたまらないような顔をしている。
何だか照れくさくなってしまったわたしは、赤く染まってしまった頬を隠すように俯いた。そんなわたしの頭を再びぐしゃぐしゃと撫でなから、ナルトさんは更に言葉を続ける。

「なまえさんは、誰よりも大切な娘を一人残して死んだりなんかしない。きっとイタチも、なまえさんをこっちに引き戻してくれる。だから…信じて待っててやれってばよ。」

ナルトさんの言葉を噛みしめるように聞いていたわたしは、改めて母さんのことを思い返した。母さんが倒れた春。あれからわたしは、母さんの病室に足を踏み入れていない。弱っている母を見ることが怖くて。
なにより、あの日母が父の名前を呼んだ時から…母にはもうわたしは必要ないのではないかと、そう考えてしまっているのだ。
臆病なわたしは母が眠っていることを良いことに、母からずっと目を逸らしていた。そうしているうちに季節は巡り、今はすっかり梅雨の時期。わたしとナルトさんの傍らにも、美しい色をした紫陽花が艶やかに咲いている。
再び口を閉ざしてしまったわたしに何かを察したのか、ナルトさんはそれ以上何も言うことはなかった。そのかわりに空を見上げると、何かに気がついたようにあ、と声をこぼす。

「なんか一雨来そうだってば。」

ナルトさんの声につられてわたしも空へと視線を移すと、空はいつの間にか灰色の雲に覆われていた…まるで今のわたしみたい。柄にもなくそう思った。


滑らかな追憶

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