やわらかい日差しが差し込む昼下がり。先日の静かな夜とは打って変わって、任務に向かう忍達や買い物をする子供連れの家族など、里は様々な人で溢れかえっていた。そんな里の様子を横目で見つめながら、わたしは改めて自分の隣にいる人物を見つめる。その人物は銀色の髪に怪しげなマスクで顔の大部分を覆い、隣に人がいるというのに"イチャイチャシリーズ"などといういかがわしい本を読んでにやにやと口元を緩めていた。

「……あの、カカシさん。」
「ん?どうしたの。」
「わ、わたし、父の事を聞きに来た筈なんですけど…」

戸惑い半分、呆れ半分で尋ねたわたしに、カカシさん…六代目火影でもあるはたけカカシはうんそうだねぇ、ととてつもなく呑気な言葉を返してくる。
今わたしとカカシさんがいるのは落ち着いた雰囲気が特徴である木の葉でも有名な甘味処。甘味を食べて笑顔を浮かべている周りのお客さんに対し、わたしの顔はもはや呆れしか浮かばない…いつものように待ち合わせ時間に大遅刻してきたかと思えば突然甘味処に強制連行し、その上隣でいかがわしい本を読まれれば誰だって呆れるだろう。そんなわたしに対してやっぱりマイペースなカカシさんはすいませーん、と間の抜けた声で店員さんに声をかけると、自分とわたし、二人分の団子を頼んだ…こういうところは年上らしいのかもしれない。
しばらくして店員さんの可愛らしい笑顔と共に傍らに置かれた団子を見て、そういえば父さんも団子をよく食べていたと母が話していたことを思い出す。そんなわたしの考えを見透かすように、つい先程までいかがわしい本を読みながらだらしなく口元を緩めていたカカシさんが突然口を開いた。

「この甘味処の団子、うちはイタチが"暁"として木の葉の里に来た時に食べた団子なのよ。」
「……え?」
「いやー思い返せばあの時は大変だったなあ。サスケはイタチを追って飛んでいっちゃうし、なんかナルトも巻き込まれてるし。」
「え…?サスケに、イタチ…?」
「まああの頃はオレも若かったからねぇ。問題児抱えててもなんだかんだやってたよなあ。」
「あ、あの、カカシさん…!」

今までの長い長い無駄な時間を取り戻すかのように話始めたカカシさんに、わたしは付いていけずに思わず話を止める…父さんが食べた団子だとかサスケさんやらナルトさんやら木の葉の里の人間ならば知らない人はいない人物の名前をぽんぽん上げられて、付いていける人の方が少ないような気がする。
わたしの制止の声でひとまず言葉を止めたカカシさんは、今度は少しばかり不機嫌そうに眉をひそめた。

「急かしたと思ったら今度は待てなんて、上司に対してなかなか我が儘だねぇ、お前も。そういう所はイタチじゃなくてなまえに似たのかなあ。」
「え…母さんってわたしみたいに我が儘な所があったんですか…?」
「まあね。我が儘っていうか、頑固っていうのかなぁ。言い出したら一歩も引かないなまえの性格には、流石のイタチも手を焼いてたよ。」
「そうなんだ…」

わたしの中の母さんのイメージは桜の花がよく似合う、淑やかできれいな女性。それをすっかり覆してしまったカカシさんに対して、わたしは開いた口が塞がらぬまま頷いた。
こうしてようやく成り立ち始めた会話だったが、わたしの頭の中は今日カカシさんに会うまでに考えていたたくさんの質問はすっかり抜けきっていて、カカシさんが話す今まで聞いたことのない若い頃の父と母の思い出の話でいっぱいになっていた。

「でもやっぱり…父さんと母さんって仲がよかったんですね。」
「そうだねぇ。二人共幼なじみで小さい頃からいつも一緒だったし。昔、たまたまイタチとなまえとオレの三人で同じ任務についたことがあるんだけど…その時見た二人の連携は、今でもよく覚えてるよ。」

いつの間にか手に持っていたイチャイチャシリーズの本を閉じ、遠い記憶を思い返すように空を見上げたカカシさんの瞳は、まるで懐かしむように優しく細められていた。そんなカカシさんの横顔を少し意外に思いつつ、わたしは話の続きに耳を傾ける。

「何も言葉を交わさなくても、お互いの必要な事を分かってる…正に阿吽の呼吸ってやつだね。そんな心が深く通じ合っていた二人だったからこそ……お前が生まれる事が出来たんだ。」

夏特有の雲一つない空から視線を戻したカカシさんは、そのやる気のなさそうな目を細めながらわたしの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。せっかくセットした髪の毛が乱れる、だとか額当てがずれる、だとか、色々言いたいことがあった筈なのに。カカシさんのあまりにも優しい瞳を見たわたしは、いつもの文句が一つだって出て来なかった。


微睡みを抱く

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