私も任務以外で手紙を書いたことなんてないので、どこか伝わらない部分があったらごめんなさい。
私とあなたが初めて出会ったのは、まだ物事ついていない時。気がついたらあなたは私の隣にいました。言うなれば、幼なじみ。私もあなたと同じように、少数しか残っていない一族の一人娘。他の人は気持ち悪いと後ろ指をさした一族特有の淡い色の髪を、あなただけはきれいだと褒めてくれました。よく思い返してみたら、私があなたに惹かれたのはその時だったのかもしれません。
私達は幼い時に第三次忍界大戦を経験してから、小難しいことばかり考えて周りの人を困らせていましたね。だけど幼い私は、あなたとあんな小難しい話をするのがとても好きでした。だって、あんな話が出きるのはお互い私達だけだったんだもの。ああやって話をしている間だけは、あなたは私だけの人だったから。
成長したあなたは暗部に入って、私もそんなあなたを追いかけるように暗部に入隊しました。けれどあなたはあまりに優秀で、真面目で。カカシさんは私達のことを見て息があっていると言ってくれたけれど、それはあなたが上手く私に合わせてくれていたから。あなたはいつも、私の先を歩いていました。
それからしばらくして、あの事件が起きました。赤い月が真っ暗な空に浮かんでいたのを覚えています。幼い頃からあなたの傍で一緒に過ごしてきた私は、あなたが忍の世界に対しての答えを出したということに気がつきました。けれど、あなたは私の前には姿を現しませんでした。あなたは優しいから、もう二度と私の前には姿を見せないつもりだったのでしょう。けれど私はヒルゼン様に掛け合って、体調を崩しているあなたに薬を届けるという役割をいただきました。よく考えてみると、とんでもないことをしたと思います。真面目なあなたが言っていたとおり、本当にあの頃の私どうしようもありませんでした。
日に日に体調が悪くなっていくあなたを、薬を届けながら私は傍で見ていました。最初はとんでもないことをした私のことを追い返し、もう来ないようにと言っていたあなただったけれど、あまりにしつこい私に、一ヶ月ほど経った時にはもうなにも言わなくなっていましたね。そして、傍にいてほしいと言ってくれました。いつも先を歩いていたあなたはわからないでしょう。あなたのその一言で、私がどれだけ嬉しかったのか。
あなたと過ごした恋人としての時間は、今でも掛け替えのない宝物です。けれど一緒にいればいるほど、迎えなければいけない別れが痛かった。そんな時、私の体に小さな命が宿りました。優しいあなたはやっぱりこの命を育むことを止めたけれど、私はどうしたってこの子をこの手で抱き締めたかったの。
あなたと永遠の別れをして、再びたくさんの悲しみを生んだ第四次忍界大戦を乗り越えて。私はあなたが名前をつけた小さな小さな花をこの手で抱きました。今まで誰にも言っていなかったのですが、あなたにだけは特別に教えます。私とあなたの小さな花は、あなたが私の前から永遠にいなくなった日と、同じ日に生まれたの。あなたにそっくりな小さな花をこの手で抱いた日。私はまるであなたがまた戻って来てくれたかのような、そんなことを思いました。
あなたにそっくりな小さな花、シオンは、とてもいい子です。顔はあなたに瓜二つ。それに真面目で誰よりも優秀なの。でも少しだけわがままなところとか、私にそっくり。あなたが褒めてくれた淡い色の髪も、シオンに受け継がれました。
早いもので、そんなシオンももうすぐ一人前になります。もうそろそろ私が教えてあげられることもないかなと思った時、ずっと誤魔化してきた病気が悪くなって、倒れてしまいました。私も一応忍として何度も修羅場をくぐり抜けて来たわけで、自分の体の具合くらいはわかります。今度こそもう駄目かもしれないと思って、サスケにあなたからの手紙を託しました。でも、病室に入って来たシオンの顔を見た時。頭が真っ白になりました。だってシオンの顔は、あなたとの永遠の別れを惜しんで泣いていた私の顔と、瓜二つだったから。
ねえイタチ。あなたはどうしてあの病室で、私の前に現れたの。永遠の別れをしてから今まで、何度呼んだって来たことなかったのに。でも、なんとなくその理由はわかったから、もういい。私もあなたも…代え難い小さな花を愛してるってことだから。
あなたからシオンへ宛てられた手紙は何度も読んでいます。何度読んでも真面目で堅苦しくって。でも、私も同じでした。治療をして随分体も良くなったので、私はまだまだ当分元気でいられそうです。もっともっと時間が経って、シオンにもあなたのような素敵な人ができたら。あなたに会いに行きます。あなたが私に似合うと言ってくれた、桜の花を持って。そうしたらどうして私が今でもあなたのことが好きなのか、教えてあげる。では、またね。


***

季節は巡り、再び木の葉の里に春が訪れた。小さなアパートの前に植えられた桜は、見事に美しい花を咲かせている。そんな桜の木が一番近く美しく見える部屋の窓際に、一人の女性が立っていた。開かれた窓から注ぐ春風が、女性の溶けるような淡い色の髪を撫でる。淡い色の持ち主…なまえは、手にしていた便箋に書かれた長い長い文章を指先でなぞり、自嘲するかのように苦笑をこぼした。そして何枚もの便箋を四等分に折り目をつけて紐のように折ると、傍らに用意していた桜の枝に結びつける。たくさんの白い花を付けた枝は、窓からこぼれる春の陽気で生き生きとしているようにも見えた。そんな姿を見て、なまえはそっと口元をほころばせる。桜の花はなまえが一番愛する花なのだ。

「母さん、準備できた?」

そんななまえの背に、はきはきと急かすような少女の声が投げかけられた。桜の枝を手に声の方へと振り返ったなまえは、ひょっこりと顔を出している可愛い愛娘の姿を見てくすくすと笑いをこぼす。今日は、任務が休みである愛娘と一緒に大切な人に会いに行くのだ。

「そんなに急がなくってもいいでしょう?」
「だって、放っておいたら母さんずっとぼうっとしてるんだもの。」
「今行こうと思ってたの。」

娘の言葉に対して飄々と答えたなまえに、娘であるシオンは呆れたように苦笑を浮かべる。開けていた窓を閉め、シオンが顔を覗かせていた扉から先に部屋を出ようとしたなまえだったが、シオンがふとなにかに気がついたように声を上げた。

「母さん、その桜の枝に付いてるの何?」

シオンの視線の先にあるのは、なまえが持つ桜の枝に結ばれた白い紙。問いかけ聞いたなまえはそっと頬を緩めると、とても愛おしいものを撫でるようにシオンの頬と、桜の枝に付いている紙を撫でた。

「内緒。」

囁くようにそう言ったなまえに、シオンは目を丸くするもすぐに大層呆れるように苦笑を浮かべる。その反応を見たなまえも、再びくすくすと笑いをこぼしながらシオンの手を引っ張った。

「ほら、行くなら早く行かなきゃね。帰りは何か甘いものも食べなきゃ。」
「もう…調子いいんだから。」

お揃いの淡い色の髪を揺らして、二人は小さなアパートから大切な人が眠る場所へと向かう。そんな二人を、静かに舞い散る桜の花弁が見守るように包み込んだ。


告げ忘れた詩

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