任務以外で手紙を書いたことなどないから、どこか伝わらない部分があったらすまない。
今お前がこの手紙を読んでいる時、オレはお前の隣にはいないと思う。それどころか、今この手紙を書いているオレはお前を抱いたことすらない。お前も、オレのことは殆ど知らずに育っただろうな。だから念のため言っておく。オレは今、犯罪者として国からも里からも手配されている。そのきっかけがどんな理由であれ、オレがたくさんの罪を犯したことは変わらない。だからこそオレはなまえがお前を生むと言った時、真っ先に反対した。お前も知っている通り、なまえは言い出したら聞かないから。結局賛成してしまった。なまえに説得されたら、オレもお前に生まれて欲しいと思ってしまったんだ。
この手紙を読んでいるお前は、もうオレが想像つかないほど大きく成長しているだろう。だからこそ、オレが犯罪者だったせいで苦労をしたり後ろ指をさされたりしたことも、何度もあるだろう。オレのせいで嫌な思いをさせてすまない。お前は、オレのことが嫌いになってしまっただろうか。でも、それでも構わない。オレは自分の自己満足でなまえとお前を置いて行ったのだから、それくらい当然だ。でも、一つだけ覚えていて欲しい。
オレはただ一人の子であるお前を、永遠に愛している。お前がオレを嫌いでも、オレだけはお前を嫌うことはない。
お前は今どんな姿をしているのだろう。髪の色は何色でどんな性格になったのだろう。少しはオレにも似ているのだろうか。短い人生の中で後悔したことは何度もある。だが、やはりお前の存在を実感すればするほど、お前の傍にいてやりたかったと思ってしまう。叶うことなら、一目でいいからお前に会いたかった。
こうしてお前に手紙を書いて初めて、オレはお前を抱きしめることも、傍で成長を見てやることも出来ないということを実感した。それでも。オレには残された残り少ない時間で、どうしてもやらなければならないことがあるんだ。
もし、死後の世界なんてものが存在するのなら。いつかお前が人生を全うした時。一度だけ、どんな姿でもいいからお前に会いたい。それから少しでいいから教えて欲しい。お前がどんな人生を歩んで、どんなものを見たのかを。
書きたいことばかりが溢れてまとまらない手紙になってしまったが、そろそろ終わりにしようと思う。長くなってしまったが、ここまで読んでくれてありがとう。では、また。


***

「……"また"なんて。父さんでも、こんな冗談を言うのね。」

夏の日の青い空を仰ぎながら、わたしはようやく読むことのできた手紙を胸に寄せた。母が倒れた春。母と父の絆を知った梅雨。そして、ようやく訪れた暑い夏。蝉の声が夏の暑さを更に強く感じさせる中、わたしの頬には夏の暑さなど忘れてしまうほどあたたかい、涙が流れていた。

「そんなに心配しなくっても、わたし…」

夏の蒸し暑い風がすっかり古ぼけた手紙を揺らす。長い間ひねくれてずっと言えなかった言葉が、私の口からそっとこぼれた。

「父さんと母さんの娘に生まれて、幸せだよ。」

古ぼけた封筒に丁寧に記されているのは、一輪の花の名前。小さな紫色の花びらを持っている花、紫苑の花言葉は"君の事を忘れない"。"シオン"…最初で最後の父からの贈り物は、何にも変えられないただ一つのわたしの名前として、今もここにある。


つま弾く運命

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