ただ一人の味方だった母が亡くなって、一人ぼっちのわたし。
長く白い髪に赤い瞳。"化け物"と呼ばれる姿になったわたしは、わたしを気味悪がった周囲の住民によって母と住んでいた家を追い出され、人体実験の施設へと引き取られることになった。母と住んでいた家を離れるのはとても辛かったけれど、あの家に戻ったってわたしは結局一人ぼっちなのだ…一人ぼっちは寂しい。施設に戻ったら失敗作であるわたしは結局消される存在。味方が誰もいないこんなちっぽけな世界で一人生きるよりも、早くこの世界からいなくなってわたしも母のいる場所へ行きたい。それがわたしの最後の願い。一人施設の前でうずくまり、雨に打たれながらそんなことを考えた。今すぐにでもいなくなりたいのに、わたしの死はなかなか訪れない。色々な感情が混ざり合って苦しくて苦しくて、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる…雨はとても冷たい。

「おまえ、なんでこんなとこでうずくまってんのぉ?」

一人ぼっちのわたしの身体に落ちてきた一つの影。この姿になってからこんな風に声をかけられたのは初めてで、わたしは膝にうずめていた顔を上げた。
丁寧に結われている桃色の髪、わたしを見つめているきらきらした瞳。歳はわたしと同じくらいだろうか。母と同じように、とても美しい人だった。彼の視線はわたしを蔑むわけでもなく、同情するわけでもない、ただ一人の"人"に向けられている視線。そんな"綺麗"な彼にわたしは目を奪われた。

「お〜い、大丈夫?」

ぼうっとしていたわたしの前でひらひらと動かされた手に、はっとする。

「……っあ!は、はい…!」
「ふうん?」

こうやって、目を合わせて人と話をしたのは久しぶり。わたしの顔を覗き込んでくる彼に少し戸惑いながらも、胸がどきどきといつもより早めに音を刻んでいる。

「それよりおまえ……すっごく綺麗だねぇ。」

彼はわたしの真っ白で長い髪を撫でながら言った……今の言葉は、わたしが言われた…と捉えていいのだろうか。

「わたし…ですか?」
「当たり前じゃん。他に誰がいんのぉ?」 
「あ…」

目の前の彼の瞳に映っているのは確かに"化け物"と呼ばれているわたしの姿。何故彼はこんな姿のわたしを"化け物"と言わないのだろう。

「わたしの事、気持ち悪いと思わないの…です、か?」
「気持ち悪い?なんで?」
「髪の毛真っ白です…し、目も真っ赤…」
「おまえ、この場所で強くなろうとしたんでしょ?」
「あ…」

わたしが施設に通ったわけは母のために強くなるため…わたしは"化け物"になるために人体実験を受けていたわけじゃない。強くなるためにこの場所へ通っていたのだ。

「その髪も目もその結果。つまり、強さの証じゃん。だからおまえの髪も目も気持ち悪くなんかない。とっても綺麗だよ。」

綺麗。それはわたしが、今目の前でわたしに笑いかけてくれている彼を見て感じた言葉。彼を見て止まっていた涙が再び溢れ出す。胸がとても熱い。

「僕は紅覇、おまえは?」
「なまえ…です。」

降り続いていた雨は、いつの間にか止んでいた。

***

幼い僕にとっては窮屈でたまらない禁城をこっそりと抜け出した僕。禁城から見える外の世界は欲望にまみれた禁城なんかより、比べものにならないくらい素晴らしい場所だった。
突然降ってきた雨はなんの用意もなしに出てきた僕の身体を少しずつ濡らしていく。灰色の空からか細く降る雨は、まるで誰かが泣いているようにも感じさせた。
そんなことを考えながら歩いていた僕の目に飛び込んできたのは現在僕の付き人である純々、麗々、仁々の三人や、僕の部下の多くを引き取った人体実験の施設。噂で聞いた話だがここの施設は"アル・サーメンの魔女"である醜い女、玉艶が膨大な金を送って実験をさせているらしい。そんな場所を横目で通り過ぎようとした僕だったが、施設の隅で小さな"白いもの"がうずくまっているのを見つけて思わず足を止めた。その"白いもの"はよく見るとどうやら僕と同い年程の少女のようだった。煌帝国付近ではなかなか見ることのない真っ白な髪。彼女の足や腕は所々彼女の身長と同じくらいあるような長い真っ白い髪によって隠されている。その白い髪はまるで彼女を蝕むなにかの動物のようにも見えた。けれど、長く美しいその白い髪に僕はどこか惹かれた。

「おまえ、なんでこんなとこでうずくまってんのぉ?」

彼女に声をかけると彼女はゆっくりと肩を震わせながら少しだけ、顔を上げた。少しだけ見えた彼女の顔はそれだけで端正だということがわかったが、それよりも彼女の頬に残る涙の跡が気になった。そんな彼女は僕の言葉に呆然として、ぽかんと口を開けている。

「お〜い、大丈夫?」

僕が彼女の前でひらひらと手を動かすと、彼女ははっとしたように俯き気味だった顔を上げた。すると、先程までは隠れていた目元が僕の目に写る。真っ赤に染まった目元。しかし、それよりも僕の目を惹きつけたのは彼女が持つ真っ赤な瞳だった。血のような赤い色は、まるで僕を別の場所へと吸い込んでしまうかのような、魔的な魅力があった。その瞳にぞくぞくと背を震わせながら、思わず出てしまう溜め息と共に言葉を続ける。

「おまえ…すっごく綺麗だねぇ。」

一点の曇りもない真っ白な長い髪とそんな髪と正反対の魔的な魅力を放つ血のように赤い瞳。純粋に彼女が"美しい"と、他とは違った彼女を"欲しい"と思った。

花に埋もれて夢を見たい

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